ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

師家所蔵 16mmフィルムのデジタル化大作戦!(その9)

2011-04-04 02:10:33 | 能楽
ホントは久能山東照宮についてはたくさん書きたいこともあるのですが、今回の旅の目的は「羽衣の碑」ですから、このブログでのご紹介もここまでにとどめておきたいと思います。

久能山から再びロープウェイに乗って日本平に戻り、一路 鮒さんと待ち合わせの静岡市役所へ。じつは鮒さんの今回の調査の目的は、師家のフィルムに記録されている人物を特定することでした。「羽衣の碑」は、マルセル・ジュグラリス氏によって伝えられたエレーヌ夫人の能『羽衣』への、そしてその舞台となった三保の松原への想いに感動した地元・清水市の市民の力によって建てられたもので、その除幕式の様子を記録したのが師家に残されたフィルムなのです。

「羽衣の碑」は本当に市民の寄付によって建てられたようですが、映像を見る限り、除幕式はすでに市民個人の範囲を超えて、相当強力な大きな主催団体があったことを思わせます。当然除幕式の挨拶には「然るべき方々」が登場されておられるわけで、この人々を特定しよう、というのが今回の 鮒さんの調査でした。

このあたり、調査に同行した ぬえは、またしても鮒さんの研究者としての着眼点に感心しましたね~。

まず、なぜ鮒さんがこの「羽衣の碑」の除幕式に招待され、また挨拶をする人物にこだわっているのかというと、どうやら昭和27年という年代のこの催しが、今でこそ当たり前のように開催されている地方自治体主催の薪能やホール能に類する地方公演の本当に嚆矢である可能性が高いから、なのだそうです。仮設舞台での演能(←これ自体は戦前からある)であり、能楽師やその後援者ではなく、東京など常設の能舞台を持つ大都市からはずっと離れた土地の有力者…あるいは地方自治体そのものが中心となって、興行的に、と言ったら語弊があるかも、ですが、愛好家に限定されない一般の観客を対象とした能楽公演を行う、というのは、どうやらこの時期に始まった事らしい。その意味で、それが証明されれば近代能楽史のひとつの解明になる、というわけです。

鮒さんは市役所でお会いした担当の方に、除幕式の映像から切り取った何人かの人物の画像を見せて、その人物の情報を伺っておられましたが、これがまた。挨拶をしている人物だけに留まらず、映像に写った人について細かい情報を尋ねておられました。鮒さんいわく「カメラがパンしていって…ふと止まる時には、それは催しに深い関係がある人物である可能性があるんですよ…」…そんなところに着目していたのか。感心しました。

市役所の担当の方も、こんな年度替わりの忙しい時期ですのに相当綿密に調べてくださいまり、何人かの人物について特定する事にも成功したのですが、結局 詳細については清水区…市役所の支所に行ってさらに調べるよう勧められました…というのも、現在三保の松原がある場所は静岡市の清水区であっても、それは数年前の市町村合併の結果であって、それ以前は静岡市とは別の自治体…清水市であったからです。なるほど除幕式当時のことについての調査は、当時の資料や関係者が残っている可能性がある現地での調査が必要ですね~。

市役所では親切にも旧清水市で事情に詳しい方をご紹介頂き、早速に現地に向かうことに致しました。

この除幕式で能『羽衣』を勤めたのが ぬえの師匠(先代)であった事は ひとつの偶然でしかないでしょうが、これまた偶々縁あって師家に入門した ぬえと、鮒さんという研究者との出会いがあって、近代能楽史の一端が調査される、というのは、なんだか感慨深いものがあります。

あ、そうそう、市役所では伊豆の子ども能のこともお話してきました! とても興味を持って、喜んでくださいました~(^^)V