アンティークマン

 裸にて生まれてきたに何不足。

レオナール・フジタ やはり凄い

2008年08月14日 | Weblog
  レオナール・フジタ すごさを再確認

 レオナール・フジタ展へ行ってきました。ずいぶん久しぶりに、たっぷり時間をかけて鑑賞させていただきました。

 絵に興味があったのかって?学生時代に、高円寺純情商店街の肉屋さんでアルバイトをしていたことがあります。5軒隣りに、乾物屋の「ねじめ商店」がありました。おそらく、ねじめ正一さんとは何度もお会いしていたことでしょうが、お互いに無名だったのですれ違ってもわかりませんでしたねえ。(ねじめさんは有名になったが、還暦パパは今でも無名だろうって?あまりにも「無名」ということで有名なのです)
 今の高円寺南口は、肉屋もねじめ商店もどこにあったのかまったく分からない変わりようです。アルバイト仲間5人全員が、荻窪にあった(今は、新宿区富久町へ移転しています)「東洋美術学校」の学生でした。毎日、「フジタがどうした。ピカソがどうした」という話を聞かされているうちに、私まで付け焼き刃の薄っぺらい理論を振りかざすようになってしまいました。絵も随分描きました。
 メトロポリタン美術館 (ニューヨーク)、ファインアート(ボストン)、ルーブル美術館(パリ)をはじめ、数多くの美術館巡りをしてきました。今なお美術館は、自分の管轄という意識があります。
 パリのモンパルナス地区は、無名の絵かきが、自分の絵を並べたり、描いたり…最新の数字は、分かりませんが、7~8万人は、いるでしょう。「パリのアメリカ人」の時代に、アメリカ人の無名画家だけで、3万人いたのですから。80年も前にですよ。ジャランジャラン(日本語にすると、ブラブラ散歩する程度の意味。東南アジアで使われる)するだけでも、「芸術のマグマの中にいるんだなあ」という気分に浸れます。

 「天才」と言ってしまえばそれまでですが、フジタのデッサン力はすごいですね。私は、モチーフの輪郭、位置関係が狂わないように、マス目の線を引いてデッサンを始めるのですが、フジタは、「いきなり描き始めている」のです。仕上がりは、写真と見紛うまでに精巧。天才とあがめる(崇める)しかないです。

 フジタが作品に書くサインですが、「藤田 F.Foujita 1918」「嗣治 F.Foujita 1926」のように漢字とローマ字で書いておりました。ローマ字のスペリングが違うって?だって、本人がFoujitaと書いているんだからしょうがないでしょ!
 Fujitaと書くべきところを、藤田嗣治は、Foujitaとした。ここからは推論ですが、フランス語では、お調子者を、「FouFou」といいます。フジタはこれを意識したのではないか?フジタのフランスでの大評判の一翼をこの「Fou…」が担っていたのではないか。
 
 フジタは、サインを漢字で「藤田」とか「嗣治」とか書いていたのですが、ある時期からキッパリ止めました。それは、1955年。フランス国籍を取得してからです。エッセイにもそのあたりは書いてありませんから、これも推論ですがね。フランス国籍取得後、二重国籍とせずに、日本国籍を抹消してしまっていますから間違いないでしょう。フジタらしいです。そもそも、1913年(大正2年ですよ)に、絵を描くために一人でパリヘ行く人ですから。奥さんを残して!当時としては、凡人から見ると、荒唐無稽だったでしょう。
 東京芸大時代も、画学生が皆ひれ伏す日本の洋画界の重鎮、黒田清輝に反発。卒業は出来ましたが、展覧会に出品しても、黒田清輝の息のかかった展覧会では、「すべて落選」しました。芸術とは違う人間くささを感じますね。人間のやることですからね。

 パリで、ピカソのアトリエへ遊びに行って、フジタは、「今まで自分は何をやってきたのだろう!」と、大きな衝撃を受けました(フジタのエッセイから、還暦パパが考えたものですが…間違いないと思います)。
 パリでは既にキュービズムやシュールレアリズムだったのです。フジタは、この絵画の自由さ、奔放さに魅せられ今までの作風を全て放棄することを決意した!
 なぜそれを断定できるかって?「家に帰って、先ず黒田清輝先生御指定の絵の具箱を叩き付けました」と、書いているからです。黒田清輝は、絵の具箱まで指定していたのですねえ。フジタは、絵の具箱を壊すことで、黒田清輝と決別したのです。また、断定しちゃった。フジタは、絵だけでなく、エッセイも書いています。死の直前(1968年1月末)まで、モノローグを記していました(「腕一本・巴里の横顔」…講談社文芸文庫)。

 この話にオチはつかないのかって?オチにはなりませんが、言い間違いを得意とする家内が、レオナール・フジタのことを、「レオナルド・フジタ」って、言ってました…。本人は、無意識のボケなのでしょうが、深いものがある、言い間違いです。「ああ、レオナルド熊の生涯とのオーバーラップね!」と思った人!「こらぁー!」過去に、「ドナルド・フジタ」と言った人がいました。アヒルじゃないから!ハンバーガー屋(マクドナルド)でもないし。
 あと…芸術の話の締めとしてはふさわしくないのですが、この美術館のトイレ、さすがだなあと思いました。「トイレットペーパー以外のものは流さないでください」という張り紙が。それがどうして「さすが」なのかって?よく読んでください。トイレットペーパーしか流せないんですよ。「ブツはどうしたらいいんだぁー!」張り紙へツッコミを入れてしまいました。