磁器装飾アトリエ&教室 ピアットスカーナ(東京)な暮らし

伊フィレンツエ18世紀からの伝統技法で磁器に装飾しています。「自由な発想で普段の生活は魅力的に変えられる」を合言葉に。

ルネサンス前夜を巡る旅/フィレンツエと東京の間で:Mostra “Il Libro dell‘Arte di Cennini” presso Meguro Art Museum vol.2

2025-03-05 14:26:10 | JAPANの街


友人Mussi氏と当時を振りかえる(LINE部分)


「Ciao!/チャオ, 何やってるの?」
師匠の絵付工房の入口のドアが開くと、職人さんや生徒さん、馴染みのお客様から声をかけられる。

「Ciao/チャオ!ご依頼で、古い家具にシモーネ・マルティーニの受胎告知を描いてるの。」
私は、立ち姿の中腰で、顔から10㎝先位の距離で向き合っている、家具の長板から顔を上げて答える。

腰が痛くならないように、自作のコルセット(段ボールを数枚重ねて、紐をくくりつけたもの)を背中にしょっている姿を見て、「は~?」といいながら、ゲラゲラ笑われるのが、楽しくなってきた。もう何ヶ月か経っている。「亀みたいでしょ?だから、ゆっくり仕上げるわ。」といって、何事も妥協しなかった。この頃から、私を職人でなく、アーティストと呼ぶ人が増えたような気がした。その言葉の本意を汲み取りながら、今もこうしてお客様の想いを体現している。



北イタリアの友人ムッシ氏から、私に描いて欲しいという人がいるから、と連絡が入った。家長の寝室家具に絵を描いて欲しいと聞いて、「私は磁器装飾専門だから無理です。」と即答したけれど、「勇気出して、やれる、できる」最後には、「やれ!」とちょっとばかり声を荒げられ、首を縦に振った次第。

そんなスタートだったから、私は「磁器装飾の方法で仕上げるわよ!」と心に決めていた。まずは、師匠にその旨を話し、工房入口の採光の良い場所を提供してもらった。画材は、フィレンツエ歴史地区の老舗「リガッチ」のスタッフに相談。方法論は、「チェンニーノ・チェニーニ『絵画術の書』」と板絵修復を学んでいた頃のノートを、日本から両親に最速で送ってもらった。そして、本物を観に、ウフィッツイ美術館ヘ。細部を観察すればするほど、やる気は増してくるが、写真撮影禁止。この1冊を見つけていなかったらと思うと、ぞっとする。部分の拡大写真が納められた専門書で、今も私の本棚にある宝物だ。(写真右下)





目黒区美術館に、この本を持参して、人知れず企画展「中世の華・黄金テンペラ画―石原靖夫の復元模写」を2倍楽しもうと思っていた。本を握る手に力が入る。工房を再現した2階の展示スペースに、同じ本が置かれていた。そうか、やっぱり、この本か!神様ありがとう。

イタリアで生活していると、不思議と良い偶然が引き寄せられることが多かった。きっとこれは大丈夫な方向だ、と行動する力が湧いてくる。そして、乗り越えられることが多かった。





2025年3月2日(日)の講座を待ち望んで美術館に向かったが、既に定員オーバー。



甘かった。。。
私同様の気持ちの方々が沢山いたのだ。学びを深めることは叶わなかったけれど、講座終了後に、先生方とお話することが叶ってしまった。

画家:石原氏「やったんだね^-^」
私「はい。」
美術史家:望月氏「あなたが描いたの!?」
私「はい。」

2つの「はい。」が言えただけで、胸がいっぱい。あのときのムッシ氏「やれ!」、首を縦に振って良かった。




左:企画展カタログ/右:石原氏と望月氏共訳の新刊


【この書をひもとく者が、良く学び得て理解し得、お恵みを授けられますように。それによって、この世で額に汗して平穏に暮らし、彼らの家族を養うことが出来ますようにお恵みをお与えくださいますよう。そして最後には、栄光に包まれて未来永劫の彼岸までお導き下さいますよう。アーメン。】(チェンニーノ・チェンニーニ「絵画術の書」岩波書店、P260‐261末文引用)


また、不思議な偶然がイタリアの方から引き寄せられた。「良く眠れるんだよ。ありがとう。あなたが描いた受胎告知のおかげで。いつも守られているようでね。」そう語ってくれた家長の言葉が、涙とともに、また再び溢れてきた。



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中世の華・黄金テンペラ画
―石原靖夫の復元模写
チェンニーノ・チェニーニ「絵画術の書」を巡る旅
2025年2月15日(土)~3月23日(日)
公式HP https://mmat.jp
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ミュージアムカフェより



友人Mussi氏からの返信(LINE部分)
関連Blog「ピノキオの続編:Settembrepiattoscana - 磁器装飾アトリエ&教室 ピアットスカーナ(東京)な暮らし」https://blog.goo.ne.jp/piattoscana-kasahara/preview20?eid=94c1850b6e891a3f732a0d444f59b1fd&t=1741151684567


本日の内容は、昨日の投稿「…voi.1」の続きです。

次の投稿は、器のグルメの企画展から。日記のようにお伝えします。

#美を見て美に満ちあふれて