一昨日まで、大雨の関東地方。昨日、本日と快晴になった。
少々、風は強めなものの、微妙に寒を混ぜ込まれた空気は気持ちよさひとしおだ。
闇に全くといっていいほど恐怖を感じなくなったオレだが、夜は、あまり好かない。
街も自然も風も、美しいと感じる対象も、忌み嫌う対象もあまりに隠蔽されてしまって、自己中心の精神世界にこもりがちだ。ソレは瞑目に等しい。
特に、オレは、日常的にアルコールを摂取しないのだから何かにわくわくすることも、夜と言う時間の流れにことさらな慰めも、意味も無いのだ。
あまり好きではない「夜」だが、例外がある。そして、ことさら、オレはこの例外を深く愛している。
昨日、今日のような夜だ。
技に命を燃やす匠によって研ぎこまれ、たやすく人命をその身に吸い込む意志を確実に持ち続ける、刀身。
その切先の持つ緊張感が放散され、再構築されたような。
その大気全てが仰ぎ見る先の、月光。
映し出されるモノ全ての本質を見抜くような、不可視な蒼い光。
日光の作り出す欺瞞に満ちた陰影とは、明らかに異なる、偽装されない凛とした大気。
吸い込まれるような影景。
オレの心の中に棲む、「ヤツ」は、自らを解放し、歓喜してこの影景を跳梁跋扈する。
少し冷香の混ざった大気が、「ヤツ」の抜け出たオレのココロから、余計なものを全て洗い流していく。
オレの自己は、この大気と同一化しようとしながらもその輪郭を明確にしていく。
この、蒼き透空、オレの憧憬のひとつだ。
飲まないのだが、気持ちよく酔う、この夜。