なんなんだ

2001年03月12日 | 会社・仕事関係

 昼休み、おれはカップメンにお湯を入れ、3分間待つあいだ煙草でも吸おう
と作業服の胸ポケットに手を持っていったとき、
「Oさ~ん、ちょっと来てー」
 と、Sさんの大きな声がした。50代後半のおばさんで、おれはこのひとの
お陰でいつも助かっている。
 おれは、あわてて休憩室を出て、2階への階段を登りかけて(休憩室は、中
2階にある)、たしかSさんの声は下からしたな、と気がつき、階段を降りた。
 搬入口から外に出ると、Sさんの前に、Tさんと皮ジャンパーを着た、歳は
50前後の小太りの見るからに目つきのよくない男がいた。
「なんなんだ」
 おれは男を見つめた。男もおれを見て何かいいそうな表情をした。
 そのとき彼女が、
「やめてよ、ここは会社なんだから」
 といって、走って工場の脇のほうに逃げた。男はあとを追った。2人は、工
場の裏の畑のほうに消えていった。
 Sさんが、恐怖に顔を歪めておれにいった。
「Tさんが、男のひとにこうやられて…」
 と、Sさんは自分の襟首をつかんで、そのあと口をパクパクさせていた。
 あの男は、Tさんのなんなんだ。元の亭主か、それとも借金取りか。おれは、
後者だと思った。30歳ちょっと出た感じのTさんの元亭主には見えなかった。
 Tさんは、2月に離婚した。おばさんたちの話では、元の亭主が悪い奴で、
サラ金にたくさん借金し、その借金をTさんが払っているということだった。
「なんで、別れた元亭主の借金をTさんが払わなければならないのか」と訊い
たら、「Tさんが保証人になってるから」ということだった。
 なんかよく分からない。サラ金から金を借りたことのないおれは、夫の保証
人に妻がなる、ということが腑に落ちなかった。
 Tさんは、そのまま早退した。明日、どんな顔して会社に来るのだろう。

コメント
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