一昨日電話すると出なかった。
定休日は火曜日のはずだったがおかしいなと思った。
昨日電話すると、奥さんが出た。
「今日やってますか?」と訊くと、
「やってます」という。
10時に予約して出かけた。
今の家から車で40分ぐらいかかる。
なんとか10時前に着いた。
散髪のイスに坐ると奥さんが布を掛けてくれたり用意してくれた。
そのとき脇にいた旦那がいう。
「今日は休みだったんですよ。ところがうちのやつは、
電話が**さんだったので予約を引き受けたんですよ。
ま、うちは今日どこにも行く予定なかったんですがね」
一昨日は、第3月曜日なので休業日だったらしい。
私は、恐縮した。
休みの日に奥さんに仕事をさせてしまった。
「すみませんでした」
私は奥さんにあやまった。
「いいんですよ。今日は何も予定ないんですよ。
それにわざわざ清瀬から来てくれたんですから」
それから散髪されながら、いつものように奥さんと、
いろんな話をした。
引越のこと、新しい家のこと、息子の結婚式のこと、
もうひとりの息子が家を買うこと、長野での暮らしのこと。
いつもはたいがい隣には客がいて旦那が散髪している。
旦那は部屋に引っ込んでしまって、
店には奥さんとふたりきりだった。
なんかいつもと雰囲気がちがう。
テレビはついていたが、ちょっとした緊張感がただよう。
その床屋には、新所沢に引っ越してから1、2年たって行くようになった。
それまでの私は、髪を切るのは後ろを女房がやり、
前のほうは自分でやっていた。
かなり長髪だったのでそれでもあまりおかしくなかった。
しかし、転職して少し短めのヘヤースタイルに
しようと思ったときから床屋に行くようになった。
息子たちも小さいときその床屋にお世話になっていた。
高校生になった頃から行かなくなってしまったが。
だから、奥さんも旦那も息子たちのことは知っていた。
私の髪はほとんど奥さんがやってくれる。
旦那が切ってくれたのはこれまで2、3回ほどだと思う。
そのたびに私の家の暮らしのことを話しているので、
おそらくうちのことを一番知っている他人になる。
イスに坐れば、
「いつものようでいいですか?」と訊かれるだけで、
あとは何も注文することもない。
長野で新しい床屋を探すことが、ちょっと憂鬱です。
昨日は、髭をあたってもらうとき、気持ちよく熟睡できた。
私はこのときが、生きていて一番心地よい時間です。
耳を掃除してもらっているときに目が覚める。
あぁ…、気持ちいいなァと思いながら、
もうすぐこの極楽は終わってしまう、と悲しくなる。
もし、こっちに戻ってくるときに髪が伸びていたら、
またこの床屋に行こう。