ダメな議論―論理思考で見抜く筑摩書房このアイテムの詳細を見る |
世の中に数多溢れる、社会・政治・経済に関する言説。
それらの中には、有益・有用なものだけでなく、無益・無用、更には有害なものまでが混在しており、素人がその判別をつけることはなかなか難しい。
そんな溢れる情報の中から、無益・無用(使い方によっては有害)な議論を、簡便な機械的なやり方で識別するための技術を解説した本である。
著者の飯田泰之氏は、1975年生まれの若手経済学者(自分より3歳若い!)。
氏は、無益・無用な、「ダメな」論説を見分けるためのチェックポイントを5つ提示している。
ここでは全てを紹介しないが、中でももっとも基本的で、使いやすいチェックポイントがこれ、
「定義の誤解、失敗はないか」
である。
人によってどうとでも取ることのできる曖昧な言葉を、定義を明確にしないまま用いている論説。
論理のベースとなる概念の定義が明確でなければ、その論説自体論理として成り立たず、真贋を判断しかねるものになってしまう。
さらに、そういった定義の不明確な概念を意図的に用いることで、実は根拠の薄い議論を、読み手に何となくもっともらしいものであるかのように思い込ませることが、知らず知らずに行なわれている。
もちろん、そういった定義の明確でない用語を使った論説の結論が、必ずしも常に誤っているわけではないが、そういう論説に出会った場合にはまず「怪しい」と疑ってかかった方が得策、と解説される。
改めてこれを意識して新聞の社説やコラム、ネット上の論説などを読んでみると、あるわあるわ、怪しそうな議論がそこかしこに存在していることに気づかされた。
この本の中でも、「国際競争力」「マネーゲーム」「虚業」「ニート」「夢」・・・など多くの言葉が、定義を明確にしないまま恣意的に使われがちな用語の例として挙げられている。
(このブログに書いた過去の記事にもそんなのたくさんありそうだが・・・まあ素人が書いたもの、ってことで・・・)
後半部は、現代日本の「ダメな議論」の例を紹介し、著者の挙げたチェックポイントに沿って「どこがダメなのか」が解説されている。
読み物としては面白いが、やや一本調子の感がある。
著者は経済学者なので、経済に関する論説の例示が多いが、これらの「ダメさ」を見抜くにはやはり経済に関する正確な知識が必要とされるように思われ、素人にはなかなか難しいかな、という気もした。
それよりも、これらの解説の前段として、「人は何故無益で誤った言説を疑いもなく受け入れてしまうのか」について、その原理を解説した第1章がもっとも興味深く、目を開かれる思いがした。
結局我々は、もともと自分が信じている、信じたいと思っている主張に合った論説を読みたがるのである。
自分が普段から何となく思っていること、好みの考え方を、一見もっともらしい理屈で理論武装してくれるような議論に接すると、その合理性・信憑性を客観的に分析することなく、ついつい無批判に受け入れてしまうのだ。
そのことをちゃんと認識しておくだけで、世の中の見え方が違ってくる。
年の始めからなかなか実践的で役に立ちそうな本に出会った。