巡礼橋本 治新潮社このアイテムの詳細を見る |
ワイドショーのネタにされ野次馬をひきつけ、近隣の人々の嫌悪と憎悪の対象となっている「ゴミ屋敷」。
老人は何故「ゴミ屋敷」の主となったのか。
みるみる変わりゆく戦後の「郊外」の風景を背景に、家族、地域コミュニティ、就業の在り方など、急速な時代の変化を受け身で感じていく主人公。
少年から青年、中年と、思うに任せぬ人生を重ねていく中で、気がついたときは独りになっていた。
普通に不器用なだけだったはずの男が、「ゴミ屋敷」の主となっていく。
泣けたわけではない。
説得力を認めたたわけでもない。
ただただその克明に描写された人生に、リアルを感じさせられた。
自分にとって橋本治は、かの大河青春小説「桃尻娘」シリーズの著者として特別な存在なのです。
それまで三毛猫ホームズやトラベルミステリーばかり読んでいた自分にとって、初めて取り組んだ現代純文学、それが「桃尻娘」でした。
「桃尻娘」の登場人物たちが表現する屈折した自意識や孤独感は、当時思春期に差し掛かっていた自分は強烈なインパクトを与え、その質感は20年経った今でも印象として残っています。
そして、本当は「普通の人間」でしかない「異端者」に対する優しい眼差しは、この「巡礼」にもそのまま受け継がれているように感じました。