そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

脱・共同体社会におけるセーフティネット

2010-04-22 00:08:13 | Politcs
4月21日付け日経新聞朝刊「経済教室」は、チャールズ・ユウジ・ホリオカ大阪大学教授と神田玲子総合研究開発機構研究調査部長による稿。
「失われた20年」を経て顕在化した、日本の社会における個人が抱えるリスクや不安の増大にどのように対処すべきか。
非常に分かりやすくまとめられていましたので、以下要約。

まず、先進国の政策体系を3タイプに分ける、デンマークの社会学者エスピン・アンデルセン氏の考え方が紹介されています。

市場メカニズムによる分配を重視する、米国型「自由主義レジーム」
税制を通じた政府による再分配を重視する、スウェーデン型「社会民主主義レジーム」
企業・家族など共同体による相互扶助を重視する、フランス型「保守主義レジーム」

日本の政策の特徴は、生活保護など政府による所得再分配機能が弱い点では米国型「自由主義レジーム」に共通するが、一方で、育児・介護を家族に依存し、雇用保障を企業に依存する点でフランス型「保守主義レジーム」に類似する。

これらの2つの側面を持つがゆえに、日本の政策は、リスクに対してうまく機能しないという欠陥を有している。
即ち、米国型では政府による再分配機能が弱いことを補完するために、ノンリコースローンやリバースモーゲージのようなリスクを軽減する金融商品が充実していたり、破綻者に寛容な破産法制が存在するが、日本にはそれがない。
また、フランス型に比べると、解雇規制による正社員中心の雇用保障は存在するが労働時間規制が弱く、また失業給付を通じた再分配政策も弱い。
結果、家族や企業のような共同体から外れている、新卒者・非正規社員・単身者・母子世帯など一部の「個人」がリスクにさらされることになっている。

上記の指摘は、先日のブログ記事で孫引きした大竹文雄氏の指摘…先進国のなかで、日本が市場競争に信頼を置かないと同時に、政府による再分配機能も重視しない(「自立できない貧しい人々の面倒を見るのは国の責任である」という考え方に賛成する人々が他国より少ない)、極めて珍しい国である…とも完全に重なります。

要するに、共同体に頼り過ぎで、社会全体でリスクを軽減するシステムの構築を怠ってきたツケが生じている、ということでしょう。
亀井静香氏あたりは、昔ながらの共同体が崩壊して日本はおかしくなった、共同体を再構築せよ!といった意見ですが、それは時代錯誤というもの。
共同体社会の、顔の見える構成員同志で監視し合う息苦しさを嫌ったからこそ、日本人は自身で共同体を崩壊させてきた。
結局、都市化も核家族化も少子化も、日本人自身が選択してきた結果のもの。
今さら時計の針を逆に回そうったって、うまくいくはずがない。
それよりも建設的に、脱・共同体社会における公平で効率的なセーフティネット構築を目指すべきと思います。

本稿で提言されている政策の柱は以下の通り。
・企業という「共同体」に依存した雇用保障を脱却し、賃金の高低と解雇リスクとの組み合わせを選択できるような雇用契約の多様化。
・規制緩和による経済成長による雇用機会増大。
・金融商品、ローンなどのメニュー拡大による金融市場におけるリスクシェア手段の充実。
・より寛容な破産法制の整備。
・性別、年齢、労働形態、家族形態によりリスクが偏在することを防ぐ公平性の実現。

全くもって同意します。
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