そもそも論者の放言

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「昭和天皇伝」 伊藤之雄

2011-12-05 23:47:52 | Books
昭和天皇伝
伊藤 之雄
文藝春秋


昭和天皇の評伝としては、以前に『畏るべき昭和天皇』を読みましたが、本著は、側近の日記など一次資料を丹念に検証しながら、昭和天皇の「畏るべき」側面だけでなく、弱さや蹉跌にもスポットを当てている点が特徴的です。

20歳代半ばの若さで即位した昭和天皇は、張作霖爆殺事件や満州事変などの処理に躓き、軍部に対する威信を築き上げられないまま太平洋戦争への突入に消極的同意をすることになります。
生来の生真面目さゆえに軍部や政治家との、或いは皇室内での確執に悩みながらも次第にその政治手腕に円熟みを増し、戦争終結に政治力を発揮。
そして、終戦後連合軍占領下、戦争責任や退位問題に揺れながらも新憲法下における象徴天皇としての自らの在り方を模索し確立していきます。

改めて印象深く思わされるのは、昭和天皇が、戦後象徴天皇となってからも含め生涯通じて政治的存在であったことです。
象徴天皇となって政治からは切り離された存在になってもなお、国内政治・国際政治に関心を抱き、内奏を受け続けたとのこと(そんな中で増原内奏問題が起こったりもするのですが)。

もちろん平成の今上天皇も我々の知らないところで内奏を受けてはいるのでしょうが、やはり生きてきた時代が違うだけに政治的な重みが昭和天皇とは違うのは致し方のないところ。
昭和天皇という重しを失ったことが、現代の日本における政治の軽さや混迷の一因となっているのではないか、そんな気もしてきます(当然のことながら今上天皇が悪いと云いたいわけではありませぬ)。

著者による評伝を読むのは『伊藤博文 近代日本を創った男』以来だけど、600頁に迫る大著は読み応え十分。
8月の終戦記念日の頃に購入して、少しずつじっくりと読み進め、開戦記念日間際のこの時期に読了しました。

改めて、昭和天皇は日本という国の現代史そのものを体現する偉大な存在であります。
日本史の教科書よりもこれ一冊を読み込んだほうがよっぽど日本現代史の理解を深めることができましょう。
コメント
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