3月17日付け日経新聞朝刊「経済教室」より。
筆者は柳川範之東大教授。
優れた日本のサービスは「おもてなし」として外国人を感動させるが、国際比較すると日本のサービス業の生産性はあまり高くないとされる。
それは何故か?
理由の一つとして計測上の問題が挙げられる。
サービス業の生産性を計算する際、通常は小売マージン(利ざや)を産出量とみなすが、それがサービスの品質を十分に反映しているとは言い難い。消費者の満足度が企業側の金銭的リターンに結びつかない場合が多いからだ。
例えば慶応義塾大学の中島隆信教授は、金銭的価値だけでなく消費者の満足度も反映して計算すると、実はサービス業の生産性はさほど低くないと指摘している。経済産業研究所の森川正之副所長の実証研究でも、製造業に比べ業種や事業所によって生産性のばらつきが大きいうえ統計が未整備で、一般的なマクロデータから計測することが難しいことが示されている。
サービスの質が金銭的リターンに結びつかない理由を解くカギとして「ギフト(贈与)の経済学」が挙げられます。
我が国のサービス業では、実はサービスの販売だけでなく、同時にある種のギフトを提供している面が強いと考えられる。対価を直接的には要求しないサービスである。そもそも動機がギフトを与えることなので、金銭的リターンを得るとかえってうまくいかない。クリスマスプレゼントを渡すと同時に相手に金銭を要求したのではプレゼントの意味がなくなってしまう。
販売したサービスに加えてギフトのサービスを提供すれば、当然売り上げはコストに比して相対的に低くなり統計的な生産性は下がる。これが日本のサービス業の基本的な構造ではないだろうか。
自分が常々考えていたことを的確に言語化してくれたなあ、という感じ。
で、論考は企業がギフトを提供する動機と、長期的利益につなげるギフトの戦略性に展開します。
日本のサービス業は伝統的に、長期的関係に基づく情報の蓄積と、属人的な経験に基づく顧客ニーズの予測に支えられてきた。しかし、海外との交流や競争が進み、サービスもローカルで固定的なメンバーに限って提供することが難しくなっていく。こうした中で新たな顧客への対応力を身につけるには、データベースを構築し、システムを通じてきめ細かい対応をすることがますます重要になるだろう。
「おもてなし」は素晴らしい。だが国や企業にとって、自身の強みの源泉を整理し、環境変化に合わせてバージョンアップしていくことは必要不可欠な戦略なのである。
「おもてなし」もアナログからデジタルへ、ということですかね。
確かに長期的関係を前提にするのはますます難しい世の中にはなっている気がします。