寂しい丘で狩りをする | |
辻原 登 | |
講談社 |
現代の社会において、ストーカー犯罪の標的になることがどれほど危険で恐ろしいことなのかを実感させられる。
社会は頼りにならず、自分で必死になって身を守るしかない。
私刑による解決をどう捉えるか、倫理的な問いかけとしての意義はある小説と思う。
辻原登の小説は他に読んだことがないのだけれど、20年以上前(1990年)に芥川賞を受賞した人なんだね。
ということはもともと純文学系の作家なのか、こういう犯罪小説のサスペンスを描くのには慣れていない印象を受けた。
描写のトーンが一定しなかったり、人称がころころと入れ替わったりで、どうにも安定しない。
山中貞雄など映画ネタが豊富に登場するのは個人的には興味深いんだけど、あんまり小説のテーマと関係ないよね。
加害者の男たちの執念深い計画性を描く一方、加害者が映写技師で、被害者が映画編集者で、発掘された貴重な映画フィルムにより二人が結びつくというあまりにご都合主義的な偶然性(しかもそのご都合主義があまり作劇に活かされない)が配されるあたりのアンバランスもいまいち据わりが悪い。