そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『草薙の剣』 橋本 治

2018-10-08 15:22:05 | Books
草薙の剣
橋本 治
新潮社


ついつい手が伸びてしまう昭和回顧小説。
しかも『桃尻娘』シリーズで自分の人生感に少なからぬ影響を与えてくれた橋本治の著作となれば読まずにはいられない。

昭和回顧と書いたが、この小説が舞台にしているのは、戦時中から戦後、そして平成の現代にまで至る長い長い時間。
昭和28(1953)年生まれの昭生を筆頭に、豊生、常生、夢生、凪生、平成15(2003)年生まれの凡生まで、10歳違いの6人の男を軸に、その祖父母や父母兄弟の人生の断片を拾っていく。
数多い登場人物のエピソードが時代の流れに沿ってあちこち行ったり来たりするので、いつ誰に何が起こったのかメモしながら読みたくなってくるが。
戦後復興から高度成長、オイルショック、安定成長、バブル景気と崩壊、失われた20年…といった経済社会の浮き沈みにその時々の社会的事件や習俗を絡ませて背景とし、家族観や学歴やジェンダー観など世代間の価値観の移り変わりを浮かび上がらせてゆく。

橋本さんなので、もうちょっと反権力な志向が見え隠れするかなと想像していたが、極めて客観的な視点で語られる。
10歳違いという等差の物差しが使われているがゆえ、ジェネレーションギャップも実に平等に炙り出される。
自分の場合、1973年生まれの常生とほぼ同世代なので、例えばファミコンの登場のインパクトなどは共感して捉えられる一方、父母の世代や、今会社の部下として接している歳下の世代がどのような時代を経ていかなる価値観を獲得してきたのかについても省みることができる。

極めて完成度の高い時代絵巻、日本人図鑑と言えるのではなかろうか。

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