またもや日経ビジネスNBonlineからメモ。
山崎養世氏のコラム「東奔西走」から、本日付「FRBバーナンキ議長がラッキーなわけ
先代の功績と世界経済の構造変化が失策をカバー」より。
11月は、株式市場の暴落の一方で、石油価格は上昇し、ついにWTIで1バレル100ドルに近づきました。金や穀物の価格も上がりました。インフレの不安が高まっているのだから、バーナンキ議長は金利を下げられないのだ、という見方もあります。
そして、70年代のようなスタグフレーション、すなわち、不況(スタグネーション)とインフレーションが同時にやってくるのか、と心配されています。そうなると金融政策も効かなくなる、という恐怖心理も各地で台頭しています。
サブプライムローン問題がもたらした株式市場の暴落が発生する中、一方でエネルギーや食糧価格の上昇が懸念されていますが、筆者は悲観する必要はまったく無いと言い切ります。
スタグフレーションなど幻想でしかないと。
オイルショックの時代の20%を超える物価上昇に比べれば、現在の物価上昇率など問題にするほどではない、ということです。
それどころか、世界経済はインフレなき高度成長の時代にあります。中国に代表されるように、人件費と不動産コストがアメリカや日本よりはるかに低い国に世界の工業製品の生産が移り、製造コストの劇的な低下が実現しました。たとえ石油などの1次産品の価格が上がっても、先進国のコストの最大部分を占める人件費と不動産コストの低下がそれを上回ります。
こうしてインフレが起きないから、金利も低い。労働、不動産、マネー、これら3大生産要素のコストが激減して、世界で展開する企業の収益が上昇を続けるようになったのです。
このようなインフレなき高度成長が実現できたのは、経済のグローバル化、特に米中の経済連携強化がもたらした構造変化の恩恵であると説明した上で、20年近くにわたりFRBの議長を務めたグリーンスパン氏の功績を讃えます。
グリーンスパン氏の功績は、第一に、経済を動かすものは株式や不動産などの資産市場であることをよく理解していたことでした。とりわけ、資産価格の上昇が富裕層や資産保有層を中心に消費を拡大し最終的には物価を上昇させることを理解していました。
つまり、物価は資産市場の上下の結果という性格が強くなったことを分かっていたのです。だからこそ、資産価格が利益水準や金利などのファンダメンタル(経済の基礎的条件)から乖離する時には、強権的に介入しました。
要は、景気の好し悪しと物価水準の上下が連動するという古典的な理論はグローバル化により価格破壊が起きた現在の主要国の経済には当てはまらない、と。
グリーンスパン氏はそのことをよく理解した上で経済政策を執行したところに功績があると言っています。
それでも、アメリカの進出企業や金融機関の収益は飛躍的に増加し、株が上がり、資産効果によって国内の消費、特に贅沢な消費が増えました。それによって幅広いサービス業でも雇用も増え賃金が上がりました。
物価が下がれば景気が悪くなり、逆に景気が上昇するとインフレになるという、フィリップス曲線の世界は成り立たなくなったのです。その亜流であるインフレターゲット論も意味を失いました。むしろ、景気と物価に影響を与える最大の要因が、株式や不動産などの資産市場の動向になったのです。
資産効果⇒富裕層による消費の活発化⇒経済成長、という好循環が継続する基盤が米国を中心とした先進諸国では盤石だ、ということです。
ところが日本だけがその蚊帳の外なんですね。
その理由については、どうやら次回以降のコラムで論じてくれるようです。
自分の拙い知識見識では筆者の説が正しいのか判断することはできませんが、典型的なグローバリスト的楽観論が体系的にわかりやすく論じられていて、なかなか参考になりました。
「富裕層がたくさん消費すれば経済全体が潤う」という神話を信じられるかどうかがポイントだと思いますが、今の日本ではなかなか実感しづらいという感じです。
次回以降の日本経済論に期待したいと思います。