そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

アジア内需論の欺瞞

2010-04-09 22:13:29 | Economics

今日の日経新聞「大機小機」は”隅田川”氏による「違和感あるアジア内需論」。
なかなか辛辣で妙味でした。

「アジアの内需を日本の内需と位置付けるべきだ」との「アジア内需論」に違和感があるという話。

 第1に、アジアの内需を日本の内需と考えるのであれば、裏返せば日本の内需はアジアの内需ということになる。アジア内需論を唱える人々は、そうした考え方に基づいてアジア諸国がどんどん日本への輸出を増やしても構わないと言うだけの度量があるのだろうか。
 第2に、文字通りアジアの内需と日本の内需が同じだというのであれば、アジアの人々が内需を増やして生活を豊かにすることは、日本人の生活が豊かになるのと同じように喜ばしいことになる。アジア内需論を唱える人々はそう言い切るだけの度胸があるのだろうか。
 第3に、要するにアジア内需論は、輸出主導型の成長戦略である。その一方で「輸出主導から内需主導へ」というスローガンがあるので、矛盾しないよう別の表現に言い換えただけえはないのか。
 アジアへの輸出を増やすことによって日本の内需を拡大し、アジアからの輸入もまた増やす。そうすることによって日本とアジアがともに発展していくことを目指す。奇妙な言い換えなどせずに、堂々とそう主張すればよいのではないか。

3点目のように政治的に何となく耳触りがよいだけで、本質的には何の意味もないご論って多いよな。

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懲りずに期待する人々

2010-04-05 21:56:38 | Politcs
「溜池通信」で面白いデータが紹介されてました。

政権支持率の推移(3週間移動平均)

4年連続で9月に首相が交代している我が国ですが、首相就任後の支持率・不支持率の推移が笑っちゃうくらいシンクロしている。
首相が替わるたびに懲りずに期待して支持しちゃう有権者もどうかと思うけど…
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バラッサ=サミュエルソン効果

2010-04-04 00:33:02 | Economics

4月2日付け日経新聞朝刊「経済教室」、ロバート・ディークル(南カリフォルニア大学教授)の記事より。
日本では、製造業に比べてサービス業の生産性が低いが、両者の生産性の差が円高を誘発する方向に働くことの解説。

 またこの場合に円高になるのは、いわゆるバラッサ=サミュエルソン効果として知られている。製造業がつくるモノの価格は、貿易を通じて国際市場で決定される。国が豊かになると、サービスに対する相対的な需要が高まるため、サービス業の価格は上昇する。しかし製造業の方は、国際市場で価格押し下げ圧力を受けるため、さほど上昇しない。
 このため、10~15年といった長いスパンでみれば、日本のサービス業の価格が米国のサービス業の価格に対し相対的に上昇するので、日本の物価水準自体が米国に比べ上昇する。そして極めて長期的には2国間の為替レートは購買力平価により2国間の物価比率に等しくなるか、円は対ドルで上昇することになる。

製造業/サービス業の生産性差が為替レートに影響するとは新鮮な視点でした。

本稿の結論としては、適正水準を越えた行き過ぎた円高は雇用と経済成長に下押し圧力を加えるので、円高によって製造業からサービス業への雇用移転を促進しようという考え方は採るべきではなく、サービス部門の規制緩和の推進によりサービス業の生産性を向上させればバラッサ=サミュエルソン効果により長期的には円安に結び付く、というものでした。

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「伊藤博文 近代日本を創った男」 伊藤之雄

2010-04-01 23:29:50 | Books
伊藤博文 近代日本を創った男
伊藤 之雄
講談社

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約600頁の大作。
図書館で予約していて受取る際には、その厚さに尻込みしそうになりました。
電車の中で立って読むと、そのずっしりとした重量で手首を鍛えることができます。

でも、読み始めてみるとこれが面白い。
読了時の満足感はそのボリュームだけによるものではありません。
手紙や日記など一次資料への取材量が尋常でなく、まるで伊藤博文の生涯を傍で見てきたかのような臨場感にあふれています。

伊藤博文は低い身分の出自で、世代的にも明治維新時にはまだ若手でしたが、明治初期に岩倉・木戸・大久保らから信頼を得て台頭し、彼らの死後には実質的に明治政府のナンバー1の存在となる。
本書で強調されているのは、明治天皇からの信頼が絶大だったこと。
そうした信頼を基盤に、憲法制定、条約改正、朝鮮・満州を巡る国際関係などの難題にリーダーシップを発揮してあたっていきます。

優れていたのは、その国際感覚と現実主義的な構想力。
若くして英語を学んだことで重用され、英国への密航や岩倉使節団への参加により欧州の先進国における国家の在り様を実地で見聞することになる。
当時の日本社会の成熟度を考慮すると、形式的に憲政を導入しても時期尚早であることを冷静に判断し、一方で民党勢力の過度の台頭を抑制してエリート主導による国家整備を進めつつ、民党の育成にも心を配り、実際に政友会の初代総裁となります。

一次資料への豊富な取材をベースにしているので、他の明治政府首脳陣との複雑繊細な人間関係についても微細まで記されているのが興味深いところです。
例えば、伊藤にとって師匠的存在であった木戸孝允や、一番の盟友であった井上馨との間にすら、一時期疎遠になったりもする。
また、元勲ナンバー2の座にあった山縣有朋は、同じ長州出身ながら対峙することしばしばであったものの、伊藤自身山縣の窮地を救うこともあり、単純なライバル関係にあったわけでもない。
薩摩閥でも、西郷従道との関係は安定していたが、松方正義とはソリが合わなかった。

伊藤の生涯は、まさに明治日本という国創りの足跡と重なります。
そして、幕末から新政府の立ち上げに至る政治状況・社会状況は、閉塞感に包まれつつある現在21世紀初頭の日本の姿とオーバーラップするものがあるなと改めて感じました。
この時代、たくさんの人が死にました。
戊辰戦争や西南戦争のような内戦、排外主義者による外国人への殺傷事件、不平士族など既得権益を失った者や民権主義の壮士が起こす騒擾事件。
それに比べると今の日本はまだまだ至って平和ですが、近い将来もっと社会不安は大きくなるかもしれない。
伊藤博文は、そんな時代を良識とバランス感覚、そして「剛凌強直」な信念で国を引っ張っていった。
そんな人物が果たしてこれからの日本にも出現するのか…
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