代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

赤松小三郎に光を ―その2

2010年03月11日 | 赤松小三郎
 前回の記事の続きです。

 ネットに掲載されている赤松小三郎暗殺事件に関する記事の中でもっとも詳しいのは、土佐生まれの文芸評論家でかつ小説家の顔も持つ鏡川伊一郎氏のブログ「小説の孵化場」にある「『薩摩』に暗殺された赤松小三郎 (全10回シリーズ)」であろう(この記事)。
 鏡川氏は、赤松小三郎を「信州の坂本龍馬」と呼び、悲劇が発生した背景をひも解き、「赤松暗殺の真の理由は、薩摩藩の軍備事情が幕府筋へ洩れることを防ぐのと、赤松の思想の抹殺にあった」と結論づけている。結論そのものは、私の見方とだいたい同じであるが、鏡川氏はさすがに歴史の専門的な書き手なので、分析は一次資料に依拠して精緻である。素人の私では逆立ちしてもかなわない。同時に、鏡川氏は、小説家らしい大胆な推理も駆使し、読む側をうならせる。拙ブログを読んで赤松小三郎に関心を持った方には、ぜひ、鏡川氏の論考も読んでいただきたい。

 鏡川氏の推理は例えばこうだ。暗殺の実行犯である桐野利秋は日記の中で、赤松暗殺の様子を克明に記述している。しかしその記述内容には不自然な点が目立つ。このことから鏡川氏は、「薩摩藩士以外の誰かに読ませる」ことを目的として書いたのではないかという推測をしている。そしてその「誰か」はおそらく長州藩士であろうという。
 桐野の日記の記述の不自然さを分析していくと、そのような結論に至る。その分析は圧巻なので、私が下手な私見を挟まない方がよい。ぜひ読んでいただきたい。さすがに、この道の専門的な書き手はすごいと脱帽した次第である。
 
 鏡川氏は、坂本龍馬研究者でもある。やはり赤松小三郎への関心は、坂本龍馬暗殺の犯人を探していく過程で生じるらしい。その点に関しては、前の記事で引用した龍馬研究者の菊池明氏も同様であった。
 歴史学者の間では、「坂本龍馬暗殺は見廻組の犯行」ということで「決着」しているらしいが、龍馬暗殺の謎に関してネットなどで延々と議論が続いているのは、多くの人々がその結論に納得していないからだろう。私も、見廻組の単独犯行説を支持できない人間の一人で、薩摩が関与した疑念をぬぐえないでいる。見廻組では、暗殺の動機はあまりにも弱い。

 赤松小三郎は、幕府と朝廷と諸藩の対立を、「民主的議会制度」という高次の政治システムの導入によって解消し、不毛な内戦による流血という悲劇的事態の発生を回避しようとした。そのため武力討幕派は、暗殺という手段により、その思想の抹殺を図った。赤松の構想を引き継いで、その実現を目指したのが坂本龍馬であった。赤松の思想が邪魔で抹殺しようとした人々にとっては、龍馬の思想も同様に邪魔であり抹殺されねばならないことになる。
 

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