代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

やはり戦国村は必要だ(大河ドラマ・江を見て)

2011年01月10日 | 歴史
 年末に書いた記事で八ッ場ダム予定地を国有の戦国村にして、ダムを中止した残金で戦国時代の山岳城郭と城下町と農家などを再現し、「時代劇版ハリウッド」にすべきと論じました。以下の記事です。
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/e1c594a81caa64a4d9485f101593d508

 昨日放映された大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」を見て、やはり戦国村は必要だという思いを強くしました。そこで上記の案をしつこく再論します。

 「江」の初回ですが、姉川の合戦や小谷落城のシーンが、ほぼ野外ロケで撮られていたところはすごく評価できました(初回だから特にお金がかかっているのでしょうけど)。ただ、ロケ地が分散しているために、映像に連続性がなく違和感が残ってしまいました。

 小谷城のシーンですが、ロケの一部は実際の小谷城址で撮っていました。これこそ究極のリアリティ。すごく評価できます。歴史オタクだった私は、学生時代にフラフラと小谷城址を一人で歩いて登ったものでした。鬱蒼とした樹林に呑み込まれそうな崩れかかった石垣を眺めながら、ここが凄惨な落城の現場かと420年前の出来事に思いを馳せて、自然に合掌していたのを思い出しました。ただ、当時の山城は樹木に覆われていなかったはずなので、鬱蒼とした樹林の中をドラマの中で「城」と設定されると、どうしても違和感があります。

 NHKとしては、樹林と崩れた石垣しかない小谷城址のみでは攻城戦のロケを完結させることはできないので、他の部分は信州の上山田温泉にある荒砥城址を使用していました。荒砥城は中世風の兵舎や櫓が再現されている全国でも数少ない山城なので、ここがロケ地として選定されたのでしょう。(ちなみに以前の大河の「風林火山」で信玄初陣の海ノ口城の合戦シーンでもロケ地として使われていました)。

 小谷城やら荒砥城やらスタジオやら、あちこちで分散してやったロケを編集でつなぎ合わせることになります。同じ場所で撮影していないため、役者たちの演技に一体性がないし、画面が継ぎはぎで連続性がないのが、どうしても残念な点でした。

 そこで戦国最強・真田軍団の聖地である吾妻に300haもの広大な国有地を持つ、八ッ場ダム計画跡地に「中世戦国村」を整備すべきだという構想の出番なわけです。山城を再現し、中世風の城下町も再現した「戦国村」ができれば、一か所で完結したロケができることになります。さぞ迫力のある映像になるでしょう。しかも今回のように各所でロケをする必要がないので、低コストで制作できることになります。NHKにとっても民放にとってもさぞかし重宝する施設になること請け合いです。

 NHKの時代考証はさすがにしっかりしていて、戦国時代の攻城戦の撮影に近世城郭を使用しなくなっています。戦国時代の山城なんて、漆喰の白壁も高層櫓もないので、近世城郭で撮影したら時代考証的にNGになります。
 「江」の冒頭の安土城のシーンは彦根城址で撮影していました。彦根城は近世城郭である安土城の設定には使えても、中世城郭である小谷城の設定には使えません。民放などでは、近世城郭(たとえば彦根城)を中世城郭(たとえば小谷城)に模してロケをしたりしていますが、これだと時代考証的におかしくて、どうしても違和感が出てしまうのです。

 戦国時代のままに復元した山城というのが全国にほとんどないのが最大のネックなのです。今回の小谷落城シーンでロケで使っていた荒砥城址にしても、そもそも信州の地方豪族である屋代氏の支城でしかない小城で、城址も一部がわずかに復元されているだけです。カメラワークでごまかして、それなりに見栄えはしていましたけど、やはり広大な規模を持つ小谷城になぞらえるのには無理がありました。

 繰り返しになりますが、中世風の山城や城下町の遺構が日本にないことが、戦国時代劇にリアリティが欠如する最大の理由になっているのです。沖積平野に城と町がある近世の風景と、山と山根地帯に城と町がある中世の風景とは決定的に違います。近江で言えば小谷城と長浜城の違い、これが中世と近世の風景の差異なのです。

 八ッ場の地はまさに中世的世界が凝縮したような場所といえるでしょう。この地に中世の風景を再現したオープンセットがあれば、その施設はNHKからも民放からもすごく需要が出るでしょう。中世の城と城下町の撮影が、今の日本ではすごく困難で、それがため、映像に迫力が出ないという状況なのですから。
 八ッ場ダムを中止すれば、その残金を用いて堂々と生活再建・地域振興事業の一環として、国の公共事業として中世の風景を再現できることになります。

 韓国政府がどれだけお金をかけて、映画やドラマ制作の後押しをしたことか。それがどれだけ韓国ドラマや映画の質を高めたことか、そして外国人が韓国の歴史と文化に対する理解を深めたことか、それがどれだけ韓国の国益につながったことか。日本政府もそれをやるべきです。

 私は環境と生活を破壊するだけのムダな公共事業は止めろと言っているのみであって、歴史的景観を維持・再生し生活と文化と環境の質を向上させるための公共事業はどんどんすべきだという立場です。
 群馬県の大澤知事、長野原の高山町長、こっちの方が観光資源としてはるかに地元の役にたち、さらにはいい映像作品を生み出すことで全国・海外にまであまねく感動を与えます。ぜひご一考をお願いします。

 子孫に絶望感を与えるダムではなく、夢と希望を与える戦国村を!


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