代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

自由貿易の神話(『環』vol.45藤原書店)

2011年05月04日 | 自由貿易批判
  藤原書店からは発行されている季刊雑誌『環』の最新号(4月30日発行)で「自由貿易の神話」という特集が組まれています。お恥ずかしながら、私も寄稿させていただきました。紹介させていただきます。

 「自由貿易」といえば昨年までは、「原発」同様、批判することそのものがタブー視される風潮にありました。TPP問題をきっかけに、中野剛志氏など多くの方々の活躍により、オープンに批判することが「解禁」されました。私もブログ界の片隅で、細々と自由貿易批判を展開してきた人間として、大変に喜ばしいことです。「自由貿易タブー」を打ち破ったのは、右とか左とかいう立場を超えたネット世論の一つの成果だと思います。

 論壇誌においても、それまでタブー視されてきた自由貿易批判が活発になってきてました。すばらしいことだと思います。

 『環』の特集は、フランスにおける自由貿易批判のオピニオン・リーダー的存在であり続けている人類学者のエマニュエル・トッドの論考を中心に展開されています。トッドのファンの方々には必携だと思います。

 私の寄稿は副題に「マルサスから宇沢弘文まで」とあるように、マルサス、グレーアム、プレビッシュ、デイリー、宇沢弘文・・・などの経済学者たちの自由貿易批判をまとめてあります。とりわけ、農産物と工業製品の財としての性質が需要面と供給面の双方で根本的に異なること(新古典派はこれを無視しています)から、両財を同列に扱って貿易自由化の対象とすると、世界レベルで経済的不均衡の拡大、および貧困層の増大という社会的不安定性の双方がもたらされることの必然性を論じています。よろしければご笑覧ください。


****藤原書店のHPより目次の引用*****

http://www.fujiwara-shoten.co.jp/shop/index.php?main_page=product_info&products_id=1188

〔学芸総合誌・季刊〕 環 Vol.45

特集: 自由貿易の神話

■ TPP問題の本質を歴史から考える

「保護主義」 とは何か 【フリードリッヒ・リストの経済学批判】 エマニュエル・トッド

政治経済学と世界主義経済学 【『経済学の国民的体系』 第11章】 フリードリッヒ・リスト (訳=小林昇)

保護主義と国際自由主義 【その誕生と普及 1789-1914】 ダヴィッド・トッド (訳=石崎晴己)

ケインズの貿易観の変遷 【論説 「国家的自給」 をどう読むか】 松川周二

賃金デフレこそ世界経済危機の根本原因 【ヨーロッパ保護貿易プロジェクト】 J‐L・グレオ (訳=坂口明義)

リベラルな保護主義に向けて 【「市場」 を規定する政治】 中野剛志

統計の人為性による自由貿易のイデオロギー化 【『脱グローバリゼーション』第1章】 J・サピール(訳=井村由紀)

自由競争教という現代の狂気  西部 邁

「自由貿易」 とアメリカン・システムの終焉  関 曠野

「環」 (Trans-) という概念から考えるTPP問題 【「環日本海」 と 「環太平洋」】 太田昌国

第一次産業を消滅させて本当によいのか? 【TPP問題の核心】 山下惣一

自由貿易と農業・環境問題 【マルサスから宇沢弘文まで】 関 良基


● 「自由貿易こそ、 日本の生きる道」 という言説は真実なのか?

〈座談会〉 トッドの自由貿易批判と日本の選択
E・トッド+佐藤優+王柯+榊原英資+小倉和夫+中馬清福 (司会) (訳=小林新樹)

〈インタビュー〉「ホモ・エコノミクス (経済人)」 とは何か 【経済学の非合理的前提】
エマニュエル・トッド (聞き手・訳=石崎晴己)

****引用終わり*****



 震災でTPPは先送りになりましたが、日本経済新聞や日本経団連や経済産業省は「震災復興のためにもTPPを」などという、唖然とするような主張をしています。何で被災者をさらに苦しめるようなことが復興につながるのでしょう? 津波と原発事故の上にTPPまでやってきたら「トリプルパンチ」でそれこそ被災地は再起不能になるでしょう。

 彼ら「大本営」が、異論を許さずマスコミを動員して翼賛的に推進してきた、「原発輸出」にしても「TPP推進」にしても、自国および諸国の国民生活を人質にとりながら、政・官・業・学ムラ社会の一部の住人のみが恩恵にあずかろうとする我欲に満ちたもので、外需志向の拡張主義という点で同根です。外需志向は一層の一極集中と社会的多様性の喪失をもたらし、日本人の賃金低下、労働条件の悪化、農村の文化と社会と環境の破壊をもたらします。さらには震災のような危機に対し脆弱な経済構造をつくり上げます。

 「原発の安全神話」と同様に、「自由貿易による豊かさ神話」もともに大本営と御用学者たちの幻想の中にしか存在しない「神話」です。現実ではありません。

 今回の「文明災(梅原猛氏談)」を機に、経団連や経産省のプロパガンダとは真逆な方向性、すなわち「外需から内需へ」そして「集中と効率から分散と多様性へ」という文明の転換こそが必要でしょう。


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2 コメント

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Unknown (三木敦朗)
2011-05-17 17:17:03
『環』の貴稿を拝読しました(この雑誌、買うのは初めてです)。学生にも読んでもらおうかと思います。ご報告まで。
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三木さま ()
2011-05-18 14:17:57
 ご無沙汰しております。
 書きたいことの100分の1も書けていませんが、読んでくださってありがとうございます。本当は自然条件の差異に基づく地代の問題も書きたかったのですが、割愛しました。農学部の学生さんに読んでいただければ大変にうれしく思います。

 また就職おめでとうござました。最近まで、お互い「フリーター研究者」を自称していましたっけ。しかし大学への就職は「御用学者への道の第一歩」とも言われます(私が勝手に言っているだけですが・・・・)。
 失うべきものは何もなかったフリーター時代の志を忘れず、御用学者を批判し、また権力を厳しくチェックしてまいりましょう。
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