『ニューズウィーク日本版』の11月12日号に、「ノーベル賞経済学者7人が語る危機の処方箋」(29-31頁)という記事が載っていたので読んでみた。米国の新大統領が取り組むべき主要な経済政策を過去のスウェーデン銀行賞(俗に「ノーベル経済学賞」と呼ばれる)の受賞者7人が提言するというものだ。
提言を寄せていたのは、ポール・クルーグマン(08年受賞)、ジョセフ・スティグリッツ(01年受賞)、マイケル・スペンス(01年受賞)、エドワード・プレスコット(04年受賞)、エリック・マスキン(07年受賞)、クライブ・グレンジャー(03年受賞)、エドマンド・フェルプス(06年受賞)の7人。
この提言をした時点で、オバマとマッケインのどちらが勝つか分かっていなかった。少なくとも文面から、スペンス、プレスコット、マスキンの3名は明らかにマッケイン支持であることがうかがえる。
例えば、これだけ制度の崩壊が明らかになり、世間から批判を浴びているアメリカの民間医療保険の問題にしても、プレスコット氏は「民間の創造性を後押しする策を取るべきだ」と述べている。「政府の規制や監督を強化すれば、医療の効率性を悪化させてしまう」と。いかにトンデモな人々に「スウェーデン銀行賞」が与えられてきたのかがよく分かる。
まあ、「銀行賞」だからよいのかも知れないが。今回の世界恐慌に関して、彼ら市場原理主義的経済学者が関心を持つのは主として、いかにして公的資金を使ってでも金融機関を救済するのかという、その点に集中している。しかし他方で、失業や貧困や無保険者の問題をどうするのかという実体経済への関心がないのである。「経済=金融」と考えているのであろう。
だから彼らは、金融機関に関しては公的資金投入という社会主義的方法を用いてでも救済すべきであるのに対し、医療や雇用など実体経済の方面はあくまでも「民間の創造性」と市場が問題を解決するかのように言うのである。マスキンなど、政府が介入すべきなのは信用市場のみで、あとは市場に任せよと露骨に書いてある。はっきり言ってアホである。ちなみに『ニューズウィーク』誌は、これらの人々を「7賢人」と称していた。
さて、私の立場といえば、一貫してエコロジカル・ニューディール。今回の大恐慌のはるか以前から、米国が実施すべきは、脱石油のための新エネルギー開発やその基盤整備の公共事業、さらに車依存削減のための新幹線やLRTなど公共交通の整備という公共事業という立場を主張してきた。財源は非常に厳しいので、軍事費の大幅削減と、累進税制の強化による高額所得者への大増税でひねり出すしかない。こうしたことを過去記事で訴えてきた。(記事1、記事2、記事3)
掲載されている7人の中で、「公共事業・公共投資を実施せよ」という至極当然の提言しているのは何とクルーグマンとスティグリッツの2名だけ。いかにスウェーデン銀行賞の選考対象の中から、社会的弱者への配慮を重視するケインジアン的な考え方の学者が、除外されてきたのかがよく分かる。まあ、この2人に関しては、もらったこと自体がニュースだったから。
なおかつ、私と同じ考えなのはスティグリッツだけである。スティグリッツは次のように明確に述べている。
「経済回復には、インフラとテクノロジーへの投資が必要だ。代替エネルギーや公共輸送網など環境分野への投資は石油依存を軽減する助けになる。(中略)
そのための財源を確保するためには(少なくとも高額所得者を対象に)増税し、もてるリソースを最大限に活用しなければならない。アメリカ経済には二つの大きな無駄がある。まずは軍だ。存在しない敵と戦うための役に立たない武器を含め、その支出はとどまるところを知らない。(後略)」
(ちなみにもう一つのムダとスティグリッツが述べるのは民間中心の医療保険制度)
クルーグマンに関しては、私は以前の記事で強烈に批判した。(この記事)
彼の言っていることはアメリカ経済に関しては、正当なケインジアンの伝統に沿ったものでまともである。「減税よりも公共事業による失業対策が重要」ということをハッキリと言っている。しかしながら、スティグリッツと違うのは、「石油依存削減と環境分野」というような明確な支出の戦略目標を提示していないことだ。ここに彼の「哲学の貧困」が現れているといえるだろう。
クルーグマンがまともじゃないのは、日本経済に対する提言である。前のクルーグマン批判の記事でも「ななし」さんとクルーグマンの評価をめぐって意見が分かれた。「ななし」さんほどの見識の高い人物でも、クルーグマンには騙されてしまうようなのだ。
アメリカ経済救済案に関しては、公共支出による失業対策というケインジアン的意見を言えるのに、日本経済に関してクルーグマンが過去に要求してきたことは、、「日銀が輪転機を回して紙幣を増刷し、日本国債を直接引き受けてインフレを起こせ」というマネタリストのような主張であった。何故、国が違うと処方箋が違うのか?
要するにクルーグマンは、「日本を滅ぼしながらアメリカを助ける」くらいのことを考えかねない人物なのだ。私が「クルーグマンに注意せよ」と呼びかけるのはこういう理由だ。
クルーグマンのアメリカ経済に対する主張がまともなので、彼を信用してしまうと、彼は日本経済に関してはそれを滅亡に追い込みかねない要求をしてくるだろう。アメリカを助けるために。だから信用してはいけないのである。
スティグリッツに関しては、おそらくそういうことはない。彼は、アメリカ人の命だろうが、イラク人の命だろうが、日本人の命だろうが、同等の重みをもって考えられる博愛主義者だからである。
提言を寄せていたのは、ポール・クルーグマン(08年受賞)、ジョセフ・スティグリッツ(01年受賞)、マイケル・スペンス(01年受賞)、エドワード・プレスコット(04年受賞)、エリック・マスキン(07年受賞)、クライブ・グレンジャー(03年受賞)、エドマンド・フェルプス(06年受賞)の7人。
この提言をした時点で、オバマとマッケインのどちらが勝つか分かっていなかった。少なくとも文面から、スペンス、プレスコット、マスキンの3名は明らかにマッケイン支持であることがうかがえる。
例えば、これだけ制度の崩壊が明らかになり、世間から批判を浴びているアメリカの民間医療保険の問題にしても、プレスコット氏は「民間の創造性を後押しする策を取るべきだ」と述べている。「政府の規制や監督を強化すれば、医療の効率性を悪化させてしまう」と。いかにトンデモな人々に「スウェーデン銀行賞」が与えられてきたのかがよく分かる。
まあ、「銀行賞」だからよいのかも知れないが。今回の世界恐慌に関して、彼ら市場原理主義的経済学者が関心を持つのは主として、いかにして公的資金を使ってでも金融機関を救済するのかという、その点に集中している。しかし他方で、失業や貧困や無保険者の問題をどうするのかという実体経済への関心がないのである。「経済=金融」と考えているのであろう。
だから彼らは、金融機関に関しては公的資金投入という社会主義的方法を用いてでも救済すべきであるのに対し、医療や雇用など実体経済の方面はあくまでも「民間の創造性」と市場が問題を解決するかのように言うのである。マスキンなど、政府が介入すべきなのは信用市場のみで、あとは市場に任せよと露骨に書いてある。はっきり言ってアホである。ちなみに『ニューズウィーク』誌は、これらの人々を「7賢人」と称していた。
さて、私の立場といえば、一貫してエコロジカル・ニューディール。今回の大恐慌のはるか以前から、米国が実施すべきは、脱石油のための新エネルギー開発やその基盤整備の公共事業、さらに車依存削減のための新幹線やLRTなど公共交通の整備という公共事業という立場を主張してきた。財源は非常に厳しいので、軍事費の大幅削減と、累進税制の強化による高額所得者への大増税でひねり出すしかない。こうしたことを過去記事で訴えてきた。(記事1、記事2、記事3)
掲載されている7人の中で、「公共事業・公共投資を実施せよ」という至極当然の提言しているのは何とクルーグマンとスティグリッツの2名だけ。いかにスウェーデン銀行賞の選考対象の中から、社会的弱者への配慮を重視するケインジアン的な考え方の学者が、除外されてきたのかがよく分かる。まあ、この2人に関しては、もらったこと自体がニュースだったから。
なおかつ、私と同じ考えなのはスティグリッツだけである。スティグリッツは次のように明確に述べている。
「経済回復には、インフラとテクノロジーへの投資が必要だ。代替エネルギーや公共輸送網など環境分野への投資は石油依存を軽減する助けになる。(中略)
そのための財源を確保するためには(少なくとも高額所得者を対象に)増税し、もてるリソースを最大限に活用しなければならない。アメリカ経済には二つの大きな無駄がある。まずは軍だ。存在しない敵と戦うための役に立たない武器を含め、その支出はとどまるところを知らない。(後略)」
(ちなみにもう一つのムダとスティグリッツが述べるのは民間中心の医療保険制度)
クルーグマンに関しては、私は以前の記事で強烈に批判した。(この記事)
彼の言っていることはアメリカ経済に関しては、正当なケインジアンの伝統に沿ったものでまともである。「減税よりも公共事業による失業対策が重要」ということをハッキリと言っている。しかしながら、スティグリッツと違うのは、「石油依存削減と環境分野」というような明確な支出の戦略目標を提示していないことだ。ここに彼の「哲学の貧困」が現れているといえるだろう。
クルーグマンがまともじゃないのは、日本経済に対する提言である。前のクルーグマン批判の記事でも「ななし」さんとクルーグマンの評価をめぐって意見が分かれた。「ななし」さんほどの見識の高い人物でも、クルーグマンには騙されてしまうようなのだ。
アメリカ経済救済案に関しては、公共支出による失業対策というケインジアン的意見を言えるのに、日本経済に関してクルーグマンが過去に要求してきたことは、、「日銀が輪転機を回して紙幣を増刷し、日本国債を直接引き受けてインフレを起こせ」というマネタリストのような主張であった。何故、国が違うと処方箋が違うのか?
要するにクルーグマンは、「日本を滅ぼしながらアメリカを助ける」くらいのことを考えかねない人物なのだ。私が「クルーグマンに注意せよ」と呼びかけるのはこういう理由だ。
クルーグマンのアメリカ経済に対する主張がまともなので、彼を信用してしまうと、彼は日本経済に関してはそれを滅亡に追い込みかねない要求をしてくるだろう。アメリカを助けるために。だから信用してはいけないのである。
スティグリッツに関しては、おそらくそういうことはない。彼は、アメリカ人の命だろうが、イラク人の命だろうが、日本人の命だろうが、同等の重みをもって考えられる博愛主義者だからである。
日本の個人金融資産、9月のリーマン・ショック前の段階ですでに1500兆円割れ。それ以後の暴落を考えると、・・・。
円高、地方自治体でデリバティブで借金・簿外債務・先送りの痴呆自治体、金利が急騰して払えるか???
クルーグマンの経済政策は、明らかに対日と対米で矛盾しています。クルーグマンの権威が高まっていますが、あそこまでいい加減な男の言うことが日本でチヤホヤされるのは、本当に危険なことだと思います。
政府債務が過大かどうかは、対GDP比で比べるのではなく、国内の貯蓄量に対する比率で比べねばならないと思います。貯蓄の多い国は債務も多くなって当然なので。貯蓄に対する債務の比率で考えれば、日本の債務なんか大したことはなく、アメリカの政府債務が世界最悪ということになります。でも表に出てくるのは対GDP比のグラフばかりで、対貯蓄比のグラフは出てこない・・・・。
クルーグマンあたりは、アメリカにおける公共事業の実施予算も日本にたかろうと考えているのではないでしょうか。
まあ、日本も利益を受ける形で、ある程度の協力をするのはやぶさかではありませんが、彼らの脅しでだまし取られるのだけは避けたいです。
FRBに余力がある????
これだけ日本を当てにしていて??????
ファニーにフレディーにGMに、AIGにシティに、ブラックホールはまだまだあるのに。FRBの金庫の中の半分はすでに借金の証文だけ。
ドルを信じるな、と猿孤児はいったか、いわないか。
>のでしたのでクルーグマンが忠告するのも当然とい
>えるでしょう。
じつは私は日本のゼロ金利には反対でした。当時は、日米の金利差を利用して、いわゆる円キャリートレードが行われ、日本からアメリカへの資本流出がおこるばかりでした。日本国内への投資を活性化させるためには、ある程度は金利を上げるべきだと考えていました。いま、アメリカがゼロ金利になったところでようやく日米の金利差はなくなりましたが。
私には、クルーグマンのインフレターゲット論は、日本から米国への資本流出を加速させて、アメリカを支えようという意図があったようにしか思えません。
私はマネタリストと違って、流動性の罠(=バランスシート不況)の状況下では量的緩和という金融政策は無効であり、景気回復の王道は累進税制の強化によって財源を確保しながら公共事業を実施することだという考えです。
>昭和デフレ時において我が国でおこないデフレを脱却した過去があります。
高橋是清が実行しましたが、激しい資本流出に見舞われて途中で方針転換し、為替管理の導入で資本流出を回避しています。結局、高橋が頼ったのは財政出動
というケインズ政策でした(当時はまだケインズが一般理論を書く以前でしたが)。
>アメリカは社会資本の劣化が進んでいますのでうまくやれば生産性の向上に結びつく可能性があります。
この点に関しては私も同意します。ただやはりインフラ整備には未来社会を構想する「哲学」が必要で、漠然と「インフラ」という一般論をいうクルーグマンに比べ、スティグリッツの方がはるかに中味があると思います。
そういえば、公共の橋の劣化が進んで危険な橋がいっぱいある…という記事を読んだのは20年も前だった気がしますが、先ごろも落ちてましたね。
改善されてるんだろうか?
何年か前の大停電も社会資本の劣化が原因のひとつにあったりするんだろうか??
うまくやれば生産性向上に結びつくかもですね。
今ならぜひエコロジカルに行って欲しいもんです。
うまく行けば世界がまねする、いや見習うだろうし。
特に日本(笑
当時の日本のゼロ金利は名目利子率で、今のアメリカのゼロ金利は実質利子率です。
物価変動率を考えた実質利子率でみれば相当な開きがあります。
当時の日本のGDPデフレーターはマイナス1%以下ですが、今のアメリカのGDPデフレータの直近データではプラスです。
つまり日本は現金でタンス預金しているだけで1%以上の利息がついていた状態でしたが、今のアメリカは現金を預けた状態で価値が変わらないという状態です。
当時のゼロ金利による金融緩和は不徹底といえるものでしたのでクルーグマンが忠告するのも当然といえるでしょう。
>金利操作に効果がない「流動性の罠」という点で、当時の日本と今のアメリカの条件に大きな相違はないのではないでしょうか。
まだアメリカは名目利子率を下げる余力があります。下げきったあとは量的緩和に移行するでしょう。
なお不徹底な金融緩和でもマイナスに陥ってデフレとなっていた消費者物価を上昇させましたのでとりあえずの効果はありました。
>当時の日本には財政出動と言わず
当時の日本には財政出動だけやっても不十分といっただけです(例えばhttp://cruel.org/krugman/krugback.pdf)
またアメリカは政府債務は日本ほどではないので余力があります。資金はいざとなれば中央銀行がひきうけるでしょう。国債の中央銀行の引き受けは昭和デフレ時において我が国でおこないデフレを脱却した過去があります。
加えアメリカは社会資本の劣化が進んでいますのでうまくやれば生産性の向上に結びつく可能性があります。
ただし条件が違うのは貯蓄です。当時の日本が過剰貯蓄国で、財政を出す余力がたくさんあったのに対し、今のアメリカは過小貯蓄により財政出動の余力がまったくありません。なのに当時の日本には財政出動と言わず、今のアメリカに財政出動というのは私には理解不能です。
何故かというとクルーグマンが言わなくてもFRBが既に実践している、または実践するからです。現にFRBの急激な利下げにより、アメリカは物価変動率を考えれば実質的なゼロ金利、もしくはマイナス金利になっています。やっている、やろうとしているのにわざわざ言う必要がありますでしょうか?