代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

【書評】小栗さくら著「波紋」(『小説現代』2020年4月号掲載)

2020年03月30日 | 赤松小三郎
 こういう時は、ジタバタしても仕方ないので、読書をたくさんして過ごすのが賢い時間の使い方と思います。

 今月号の「小説現代」に、中村半次郎による赤松小三郎暗殺事件を扱った小説が掲載されたという情報をネットで知って、早速書店で買い求めて読んでみました。
 文学作品の中で、赤松小三郎が主要登場人物として描かれるのは、江宮隆之氏の『龍馬の影 -悲劇の志士赤松小三郎』以来、これが2作目です。

 著者は歴史アーティストの小栗さくら氏。小説のタイトルは「波紋」です。
 小栗氏が、小説も書く方だとは全く知らなかったのですが、じつに文学的センスが豊かで、優れた作品だと思いました。ちょっと涙なしでは読めないほどでした。何かの文学賞を受賞するに十分に値するクオリティだと思います。
 優れた文学作品やドラマなどで取り上げられない限り、なかなか赤松小三郎が知られるようにはならないだろうと思っていましたので、優れた作品を生み出してくれた小栗氏に、感謝を申し上げます。



 あまり詳しく書評するとネタバレになってしまうので止めときますが、書かれていることはほぼ史実通りと思います。もちろん事件そのものが諸説あるので、小栗氏が提示した解釈はあくまで一つの説なのですが、その説は、真説ではないかと私は思います。
 
 そもそも赤松小三郎暗殺は、中村半次郎の独断の犯行なのか、それとも藩の指令なのか、それとも藩の中の一部勢力の指令なのか・・・・といったところからして定説はありません。
 また、中村半次郎は、自分の行いを絶対的に正しいと確信して犯行に及んだのか、悩み、迷い、苦しみながら実行に及んだのか、といった彼の心の奥底となると、さらに定説など何もありません。
 
 そうした中で小栗氏は、歴史学者であれば史料不十分で「詳細不明」としか言えないような部分に関して、小説という創作の許される媒体を利用して、一つの解釈を与えています。
 
 小説の最後のシーンにはこうあります。「半次郎は振り上げた刀で、今を生きるために、未来を殺す」と。この言葉はあまりにも重い。読者には、繰り返し、繰り返し、その意味を考えて欲しい一文です。私たちは殺された未来の中の、今を生きているのだ……と。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。