先の記事で紹介した私の友人たちが作成したNHKの「その時歴史が動いた: 引き裂かれた村~日米決戦の舞台・フィリピン~」が終了しました。予想通り(?)、フィリピン史ということで視聴率はイマイチだったようです。しかし番組の感想を書いていたブロガーの記事をいくつか読んでみましたが、視聴した方々の番組への評価は非常に高いことがわかります。
「フィリピンかぁ、まあ、今回は録画しなくてもいいや」と全く期待せずに視聴してみたら内容の良さに驚いて「しまったなあ、こういうテーマこそ子ども達に見せなくてはいけないのに」と反省の弁を書いていた方もいました。(この記事)
フィリピン人がベトナム反戦運動に立ち上がる最後のシーンで涙を流したという感想もありました(この記事)。
やはりあの番組の一番のミソは、「米軍基地付きで経済的にも従属したままアメリカから与えられた独立」という「見せかけの独立」で話しを終わらせずに、1986年、米国に支えられたマルコス独裁体制を民衆の力で打倒、そして1991年には民主主義の力で米軍基地撤去を勝ち取ったという「真の独立」にまで話しを持っていったところでした(ちなみに、私もフィリピンの上院が米軍基地撤去を決めた1991年9月16日、上院を取り囲んだデモ隊の中に混じっていたものでした。あの時の感動は、本当に生涯忘れられないでしょう)。
番組の大部分が陰惨な話しだっただけに、最後のシーンの感動がより深まって、格調の高い番組に仕上がったと思います。45分にあの内容をよく収めたと思います。
番組のコメンテーターで出演していた中野聡先生は、番組で省略せざるを得なかった部分について補足説明しながら、「番組作りというのは「大胆な省略」の芸術だ」という感想をご自身のブログで書いておられます(この記事)。
本当にその通りだと思いました。45分に収めるためには、大胆な省略が求められます。たとえば、もう一つの抗日ゲリラ組織であるフクバラハップの存在などは全面的にカットされています。私の友人はそうした事実も入れたかったのですが、45分で収めるためには断念せざるを得なかったのです。しかし、そうした残酷なまでの「省略」をする中でも、もちろん事実関係に間違いはあってはならない。さらにストーリーとして面白くなければいけません。
今回は、大胆な省略をしながらも、1899年の米国の侵略によるフィリピンの植民地化から、1991年の米軍基地撤去までを描ききるという、芸術性の高い番組に仕上がったのではないでしょうか。
もっとも、省略した部分でも別途番組をつくると大変に面白いと思います。
今回取り上げた1946年7月4日の独立は、じつはフィリピンの三回目の独立でした。それ以前にフィリピンは二回独立しているのです。フィリピン史では、最初の独立国を第一共和制、二回目を第二共和制、三回目を第三共和制(現在のフィリピン共和国)と呼んで区別しています。第一共和制と第二共和制も、十分の取り上げるに足るものだと思います。
フィリピンの第一共和国とは、1899年にスペインからの独立戦争の過程で独立したエミリオ・アギナルドを大統領するアジア最初の共和国です。この共和国は、自分たちの頭ごなしに、旧宗主国のスペインからフィリピンの統治権を譲り受けた米国の侵略を受けて崩壊します。このフィリピン第一共和国と米国とのあいだの戦争(比米戦争)は、米国にとっては、現在にまで引き続く侵略性を最初にむき出しにした、最初の対外侵略戦争でした。
このアジア最初の共和国の成立から崩壊までの栄光とそして悲劇の過程は、日本ではあまり知られていません。ちなみにフィリピン人は、米国から与えられた三回目の独立である7月4日を独立記念日とは認めていません。1898年、スペイン軍との戦いの中でアギナルドが独立宣言をした6月12日こそ真の独立だったという認識で、6月12日を独立記念日と定めています。
フィリピンの第二共和国とは、1943年10月14日に、日本軍の駐留下で日本から独立を与えられた共和国です。この政府についての詳細も、もっとも関係する当の日本でほとんど知られていません。この政府は、通常は「日本の傀儡」として片付けられることが多いのですが、その閣僚の顔ぶれを見ると、大統領のホセ・P・ラウレル、外務大臣のクラロ・M・レクト、文部大臣のカミロ・オシアス・・・・と、米国にも日本にも屈しなかった気骨のある政治家たちばかりでした。その一人一人を取り上げても大変に面白い番組になるでしょう。
NHKの歴史番組のスタッフの皆様には、ぜひ、今後とも植民地として苦しめられてきた国々の独立史などを積極的に取り上げていってもらいたいと思います。インド独立、ベトナム独立、ビルマ独立、インドネシア独立・・・・と本格的にやり出せばネタは尽きません。
あるいは今激動のラテンアメリカ諸国を取り上げるのも面白いですね。南米諸国が、米国にいかに侵略され、主権を踏みにじられてきたのか、現在南米で起こっている脱米のうねりを理解するのに必要な知識ですから。
「フィリピンかぁ、まあ、今回は録画しなくてもいいや」と全く期待せずに視聴してみたら内容の良さに驚いて「しまったなあ、こういうテーマこそ子ども達に見せなくてはいけないのに」と反省の弁を書いていた方もいました。(この記事)
フィリピン人がベトナム反戦運動に立ち上がる最後のシーンで涙を流したという感想もありました(この記事)。
やはりあの番組の一番のミソは、「米軍基地付きで経済的にも従属したままアメリカから与えられた独立」という「見せかけの独立」で話しを終わらせずに、1986年、米国に支えられたマルコス独裁体制を民衆の力で打倒、そして1991年には民主主義の力で米軍基地撤去を勝ち取ったという「真の独立」にまで話しを持っていったところでした(ちなみに、私もフィリピンの上院が米軍基地撤去を決めた1991年9月16日、上院を取り囲んだデモ隊の中に混じっていたものでした。あの時の感動は、本当に生涯忘れられないでしょう)。
番組の大部分が陰惨な話しだっただけに、最後のシーンの感動がより深まって、格調の高い番組に仕上がったと思います。45分にあの内容をよく収めたと思います。
番組のコメンテーターで出演していた中野聡先生は、番組で省略せざるを得なかった部分について補足説明しながら、「番組作りというのは「大胆な省略」の芸術だ」という感想をご自身のブログで書いておられます(この記事)。
本当にその通りだと思いました。45分に収めるためには、大胆な省略が求められます。たとえば、もう一つの抗日ゲリラ組織であるフクバラハップの存在などは全面的にカットされています。私の友人はそうした事実も入れたかったのですが、45分で収めるためには断念せざるを得なかったのです。しかし、そうした残酷なまでの「省略」をする中でも、もちろん事実関係に間違いはあってはならない。さらにストーリーとして面白くなければいけません。
今回は、大胆な省略をしながらも、1899年の米国の侵略によるフィリピンの植民地化から、1991年の米軍基地撤去までを描ききるという、芸術性の高い番組に仕上がったのではないでしょうか。
もっとも、省略した部分でも別途番組をつくると大変に面白いと思います。
今回取り上げた1946年7月4日の独立は、じつはフィリピンの三回目の独立でした。それ以前にフィリピンは二回独立しているのです。フィリピン史では、最初の独立国を第一共和制、二回目を第二共和制、三回目を第三共和制(現在のフィリピン共和国)と呼んで区別しています。第一共和制と第二共和制も、十分の取り上げるに足るものだと思います。
フィリピンの第一共和国とは、1899年にスペインからの独立戦争の過程で独立したエミリオ・アギナルドを大統領するアジア最初の共和国です。この共和国は、自分たちの頭ごなしに、旧宗主国のスペインからフィリピンの統治権を譲り受けた米国の侵略を受けて崩壊します。このフィリピン第一共和国と米国とのあいだの戦争(比米戦争)は、米国にとっては、現在にまで引き続く侵略性を最初にむき出しにした、最初の対外侵略戦争でした。
このアジア最初の共和国の成立から崩壊までの栄光とそして悲劇の過程は、日本ではあまり知られていません。ちなみにフィリピン人は、米国から与えられた三回目の独立である7月4日を独立記念日とは認めていません。1898年、スペイン軍との戦いの中でアギナルドが独立宣言をした6月12日こそ真の独立だったという認識で、6月12日を独立記念日と定めています。
フィリピンの第二共和国とは、1943年10月14日に、日本軍の駐留下で日本から独立を与えられた共和国です。この政府についての詳細も、もっとも関係する当の日本でほとんど知られていません。この政府は、通常は「日本の傀儡」として片付けられることが多いのですが、その閣僚の顔ぶれを見ると、大統領のホセ・P・ラウレル、外務大臣のクラロ・M・レクト、文部大臣のカミロ・オシアス・・・・と、米国にも日本にも屈しなかった気骨のある政治家たちばかりでした。その一人一人を取り上げても大変に面白い番組になるでしょう。
NHKの歴史番組のスタッフの皆様には、ぜひ、今後とも植民地として苦しめられてきた国々の独立史などを積極的に取り上げていってもらいたいと思います。インド独立、ベトナム独立、ビルマ独立、インドネシア独立・・・・と本格的にやり出せばネタは尽きません。
あるいは今激動のラテンアメリカ諸国を取り上げるのも面白いですね。南米諸国が、米国にいかに侵略され、主権を踏みにじられてきたのか、現在南米で起こっている脱米のうねりを理解するのに必要な知識ですから。
番組を見終わって思ったのは「歴史というのはひとつではない」ということです。アメリカにはアメリカの、日本には日本の、そしてフィリピンにはフィリピンの歴史があって、それらはそれぞれ少なからず自国のご都合で書かれているものなのだ、と。
番組で取り扱われていたのはフィリピンの歴史ですが、しかしこれは、日米に虐げられた弱者の歴史、しかも最も弱い庶民の視点に立った歴史です。それも陰惨な。こうした歴史に「ご都合主義」が立ち入る隙間はない。これもまた番組を見て感じたことでした。
最近のNHKはそうした弱者の歴史を取り上げる番組が多いように感じます。関さんの仰るように、そうした視線を日本国内のみならず、世界にも向けて欲しいですね。今回フィリピンを取り上げたのが、その皮切りになってくれればうれしいです。
コメント、まことにありがとうございました。番組への評価は高くて、あの番組をつくったディレクターも喜んでいます。
彼に聞いたところ、視聴率に関しても、事前の予想よりは高かったということで胸をなで降ろしているようです。「途上国ネタは視聴取れない」と避けることなく、どんどんチャレンジして行って欲しいですね。関心持つ人が増えれば、相乗効果でだんだん視聴率も上がるでしょうから・・・。
歴史番組というと英雄史観に立ってしまうことが多いのですが、ご指摘のように、今回の番組は植民地支配下で、土地も持たない農民たちという、いちばんの社会的弱者の声を救いあげて歴史番組を構成したということで、異色作になったと思います。
歴史を理解する上で英雄を取り上げる番組も必要ですが、こうした番組も合わせて作られると、歴史理解の深みがより増しますね。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。