代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

トランプ大統領を歓迎する

2016年11月09日 | 政治経済(国際)
 イギリスのEU離脱に続き、またもや事前の世論調査を覆した。マスコミの世論調査などまったく当てにならないことが、浮彫になった。そりゃ「トランプに投票する人間は低学歴」なんて、さんざん選挙民をバカ扱いしながら、その同じマスコミが「トランプとヒラリー、どちらに投票しますか?」なんて聞いても、すなおに回答しないのも無理はない。
 グローバル資本主義を礼賛し、ヒラリー以外に選択がないかのように煽り続けたマスコミに真剣に反省を求めたい。
 
 私は、トランプ大統領を歓迎する。トランプ大統領には、あまり多くは期待しないが、NAFTAを見なおし、TPPを取りやめ、中東でテロリストへの武器輸出を止め、無用な戦火を煽らないでくれれば、それだけで感謝の気持ちでいっぱいである。NAFTAを止め、アメリカの製造業とメキシコの農村を救えば、必然的に、不法移民の流入も減少する。アメリカにとってもメキシコにとっても福音となるだろう。

日本は緩やかに離米を

 日本政府も、ロシアや中国と関係を改善し、アメリカ頼みではない多角的な安全保障政策を追求すべきである。ヒラリーならそれを許容しなかったであろうが、トランプは許容するであろう。ロシアとの関係改善を模索する安倍政権にとっても悪い話ではないなずなのだ。
 
 日本は、緩やかな脱米を進めるべきである。当面「在日米軍は将来的には第7艦隊のみで十分だ」と言った、小沢一郎の構想を復活させるべきなのだ。これで辺野古基地も撤回できる。沖縄にとっても福音である。

新自由主義≠モンロー主義

 識者の中には、トランプが福祉関連や再分配政策にあまり関心を払っていないから、トランプも所詮は格差の是正には無関心な新自由主義者であるという主張が強い。トランプは断じて新自由主義者ではない。
 「新自由主義」とは、グローバル大企業の自由な展開を保障するため、国境の壁を取り払い、諸外国に対して、経済的・軍事的な干渉と、新古典派イデオロギーの押し付けを実行する。トランプは国内政策的には「小さな政府」を志向しているように見えても、国境での関税障壁を高くし内に籠ろうとしている点、また外国への軍事的・経済的干渉を弱めるであろう点、新自由主義者ではなく、モンロー主義者と呼ぶべき存在である。
 

関税政策こそ最高の福祉政策

 また、関税を引き上げてアメリカの製造業を復興させることに優る福祉政策などない。関税自主権を回復し、国内の製造業を守り、雇用を安定化させることこそ、最強の福祉政策なのだ。トランプには、できればWTOから脱退してもらい、自由貿易体制を完全に終わらせてもらいたい。
 こういうことを言うと、すぐに「鎖国しろというのか!」と攻撃されるが、ふつうに関税による調整機能を認めたうえで貿易をせよと言っているだけである。為替や原油価格などの変動に振り回されて、安定して仕事もできないような状況で、どうやって落ち着いて暮らせというのだ。関税による国境での価格調整機能がない限り、国内の雇用を安定して維持などできるわけがない。

関税政策はアメリカ建国の原点

 国の財源を関税収入に依存する財政関税主義こそ、アメリカ建国の原点であり、それがアメリカの安定を取り戻す鍵になる。

 手持ちの資料からいくつか紹介しよう。下の表はアメリカの連邦政府の歳入に占める関税収入の比率である。建国当初は歳入の90%以上が関税、19世紀になっても50%は関税収入だった。高関税でアメリカの製造業を保護しつつ、歳入の半分を関税に依存するという、この発展戦略こそ、アメリカの繁栄を生み出した鍵なのである。自由貿易こそ繁栄の原動力とする新古典派経済学者の主張はすべてウソである。


 
出所)朝倉弘教『世界関税史』日本関税協会、1983年:312頁。

 下の表は、主要先進国の平均関税率を比較したものであるが、アメリカは19世紀には平均で35%から50%という世界でもっとも高い関税率を維持していた。国内の雇用を安定化させるにはこれに優る方法はない。かといって別に貿易しないわけでもない。

 多少関税は取られるが、高関税をかけられても外国製品はふつうに貿易されていた。アメリカは関税という財源を取り戻すだけで、財政赤字も減り、雇用も安定化し、教育や福祉への財源も確保できるから、一般国民にとっては全く悪い話ではない。

 輸出依存度の高いグローバル大企業は確かに困るが、国民生活の安定には替えられない。アメリカで起こっていることは下層階級の反乱であり、階級闘争なのだ。ここでグローバル大企業を黙らせられるかどうかが、トランプ政権の最初の試金石になるだろう。

 

出所)ハジュン・チャン『はしごを外せ』日本評論社、2009年:26頁。



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3 コメント

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「奇跡の大逆転」をもたらしたもの。そして、「奇跡」と「大逆転」はこれから。 ( 睡り葦 )
2016-11-09 23:24:21

 関さんがおそらくご覧になっているであろう「マスコミに載らない海外記事」というウェブログの存在に感謝しつつ、その本日11月9日のきわめて印象深い記事、11月5日付のウィキリークスのジュリアン・アサンジ氏のインタビューを引用する誘惑に勝つことはできません。かのアサンジ氏はヒラリー・クリントンについてこう語っています。

 「巨大銀行ゴールドマン・サックスや、ウオール街の主要企業、諜報機関や国務省の連中やサウジアラビアに至るまで、実に多くのギアが動いているのです。彼女は、こうした様々な全ての歯車を相互に結びつけている中心歯車なのです。彼女は全ての中心的代表で、‘全ての’というのは、事実上、現在アメリカ合州国で権力を握っている連中です。我々が、支配体制、DCコンセンサスと呼んでいるものです。我々が公表した、より重要なポデスタ電子メールの一通は、オバマの閣僚がいかにして形成されたか、オバマ閣僚の半数が、いかに、基本的にシティバンクの代表者によって指名されているかを示しています」

 ・・・と。そして、さらに、今般の米大統領選挙の見通しについて、

 「トランプは勝利することを許されないだろうというのが私の答えです。私がそう言う理由ですか? ありとあらゆる支配体制を、彼から離していますから(原文:Because he's had every establishment off side; )。トランプを支持している支配体制(エスタブリッシュメント)はありません。あるいは、もし彼らを体制派と呼べるなら、福音主義派を例外として。しかし銀行、諜報機関、兵器会社・・・ 巨大な外国の金 ・・・全てヒラリー・クリントン支持で団結しています。マスコミも、マスコミのオーナーも、そして、ジャーナリスト連中さえも」

 と語っています。ヒラリー・クリントンの魔神のような怖ろしさに目を剝きました。
 すると、クォリティ・ペーパーによるものを含め、すさまじい人身攻撃の津波にさらされたトランプ氏の勝利はまさに奇跡、ウィキリークスとFBIの捜査官たちによってもたらされた大逆転であるわけです。
 しかしやはりどうしても、クリントン・コネクションとしてのエスタブリッシュメントから「土人」呼ばわりされかねないだろう米国の民衆による合法的な革命であるように思えます。

 じつはひそかに思っておりましたことは、あらゆる支配システムを駆使するヒラリー・クリントンがとどめに開票システムを動かして当然のように勝った場合には、血と膿にまみれて生まれた「クリントン政権」に対する、暴動に近いものまでを含む抵抗の波がさまざまなかたちで米国において湧き起こるのではないかということでした。
 率直に言って、エスタブリッシュメントの一部における、そのリスクの認識がトランプ氏の「混乱なき勝利」を生んだのではないかと思います。その意味で無血革命と呼びたい気持ちに駆られます。そして思いますに、これはさきの新潟県知事選において起きたように日本において可能なことであるはずです。

 関さんがおっしゃるように、トランプの持つ政策は、米国をグローバル新自由主義と一体となった帝国主義軍産国家から、利己的・保護主義的ではあれ、世界覇権の維持に血道をあげることのない国民国家へとカードを替えるものになると思います。
 最初の帝国主義世界総力戦であった第1次世界大戦からほぼ100年というタイミングで本日、これが起きたことを思い、しばし瞑目していました。

 ですから、奇跡と大逆転はこれからです。TPP、集団的「自衛権」という名の従属的帝国主義軍事同盟、国まるごとの軍産企業化を含めて、あらゆるところで先行を繰り返している反革命のカードをひとつひとつ反転するこころみが成功裡になされてゆくことを強く期待します(必然的に「明治長州維新」にさかのぼって)。
 永続的被曝から核戦争の危機を含めた「死に至る病」である絶望から「土人」としてのわれわれ自身を救い出すために。
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やっぱり歓迎できない (りくにす)
2016-11-15 10:56:21
トランプ大統領がTPPから撤退し、代わりの貿易協定を提案することがないとしても、レイシズムを煽ったという「副作用」のほうが多いように思います。現に世界中の排外主義者(日本のも?!)元気づいている、という情報もあります。

13日日曜の午後、カンボジアの女性映画監督がNHKアーカイブスを訪れて昔のカンボジアの映像を探す、という番組をやっていました。壮麗なホテルになるはずだった「ホテル・カンボジア」が未完成のまま難民の住居になっているというドキュメントを番組中で紹介していました。ご存知ポル・ポト政権の大虐殺の時代、映画監督ソト・クオリーカーの父も知識人ということで強制収容所に連れていかれ殺されました。クオリーカー監督も父のことを知りたかったのですが、母親は口を堅く閉ざしてしまって何も聞くことができなかったそうです。
考えてみれば、ポル・ポトが自分の手勢を総動員するだけでは国中の知識人を捕まえたり国民の3分の1を虐殺することは不可能です。こういうことは20世紀のアジア限定の出来事なのでしょうか。

人種差別をしてはいけない、というポリティカル・コレクト(PC)を憎むべき「知識人階級」に結び付ければ非白人虐殺が始まってしまうというおそれが出てきます。杞憂でありますように。ずっと昔のことですけど、「ユダヤ人による世界支配陰謀」の本の隣に「黒人による世界支配陰謀」の本が翻訳されてあり、手に取って嫌な感じをしたことがあります。70年代には「非白人への恐怖」がある層で具現化し始めたのだと推測します。

①トランプが人種差別を煽ったことは容認できない。
②トランプは白人労働者に寄り添う姿勢を見せて当選したが、政権移行チームのメンバーを見ると共和党と東部エスタブリッシュメントの代表に見える。そしてまったく勝手な見立てだが、「強いアメリカ」では白人労働者を救えない気がする。せめて諸州に強い主権を与え、州間の貿易に関税を許可するぐらいでないと地方都市の産業は守れないのではないか…と変なことを考えております。
③多くの人が懐かしがっている1950~74年あたりの経済成長は世界的な戦後復興が背景にある再現不能な繁栄であったと誰かが言っていたような気がするが、誰だか思い出せない。

もちろん「自由貿易」をめぐる欺瞞は許しがたいし、トランプに投票した人々の怒りも正当なものと思います。トランプ候補がその怒りの正しい代表者といえず裏切るんじゃないか…という気がしないでもないのですが…
ブログ主様に反対するのは心苦しいのですが、しかたありません。「自由貿易」と「新自由主義」には反対ですが、トランプ新大統領はいまいち歓迎できません。
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悪だけど最悪ではない ()
2016-11-18 16:18:27
りくにす様

 私も、サンダースにいちばん大統領になってほしかったので、トランプでよいとは思っていません。
 しかし悪のトランプの方が、最悪のヒラリーよりはマシです。悪でも、最悪よりは良い。ヒラリー大統領だと戦火の拡大が止まらなかったでしょうが、米ロ協調のトランプなら中東の戦火を止めてくれるでしょう。それでシリア難民が減れば、ヨーロッパの排外主義の拡大も止まります。

 排外主義者の高まりは、グローバル化の結果なので、トランプ程度はまだまだ序の口だと思います。グローバル化が進んでいくところまでいってしまえば、最後にはヒトラーみたいのが登場します。

 トランプ程度ですんでいるあいだに、一刻も早くグローバル化の流れを止めないと、最後はヒトラーで終わります。

>「強いアメリカ」では白人労働者を救えない気がする。せめて諸州に強い主権を与え、州間の貿易に関税を許可するぐらいでないと地方都市の産業は守れないのではな

 いや、まずは国境での関税が先だと思います。これはアメリカのみならずメキシコにもいえます。メキシコもアメリカのトウモロコシに関税をかければ、メキシコの農村も安定を取り戻し、麻薬戦争も不法移民も穏やかになるでしょう。そうすれば排外主義は止まります。
 私も、トランプの政策の多くは支持しませんが、関税政策だけは支持します。
 逆にいえば、虎の子の公約である関税政策を、エスタブリッシュメントに配慮してトランプが放棄するようでしたら、トランプ政権に未来はないでしょう。
 いずれにせよ今回のトランプ現象は、激動の始まりの序曲です。
 私が期待するのは、まずトランプにグローバル化の拡大を止めてもらって、アメリカが落ち着いた後に、最終的にサンダース的な人物に大統領になってもらいたいということです。
 
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