代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

野田新政権への要望

2011年09月01日 | 政治経済(日本)
 私は野田佳彦新首相の政策や考え方に関してはほとんど知識がなく、知っていることといえば、増税論者であること、改憲論者であるといった一般的なことのみだった。印象としては、新古典派ベッタリの緊縮財政論者、米国ベッタリの軍事的タカ派というイメージだった。その風貌から「ドラマの水戸黄門に悪代官役で出れば似合いそうな人だなあ」などと思っていた。正直、5人の候補の中で最もなってほしくないと思っていた候補だった。
 しかしはじめから批判ばかりしても仕方ない。期待を裏切って大化けしてくれることにほのかな期待を持ちつつ、要望してみたいと思う。

 あまりにも野田さんについて何も知らなかったので、政権交代直前に野田さんが書いた『民主の敵 政権交代に大義あり』(新潮新書、2009年7月)という本を買って、彼が何を考えているのか勉強してみた。思ったほどには米国ベッタリでもなく、ゴリゴリの市場原理主義者というわけでもなく、少なくとも悪代官ではなく門閥閨閥とは無縁の人情味のある庶民派であるということは分かった。けっこう本の中で米国も批判しているし、市場原理主義も批判している。さらに驚いたことには資源エネルギー庁の原発推進広報の批判までしていた。いくつか前掲書から野田氏の言葉を引用しておく。以下のような野田さんの主張は、私も全く賛同できる。

***引用開始******

「小泉さんの規制緩和はアメリカのためだったのではないか、と思っています」 
「結局、彼(小泉元首相)の構造改革は、セーフティ・ネットも容易しないまま、アメリカに協調していった路線でした。だから、国益を損ねる部分が相当あったと思っています」
「市場にまかせた結果は、破滅するまで手の施しようのない暴走であり、やはり万能ではないことがわかってきました」(野田、前掲書、55-56頁)

「教育とか医療といったいわゆる社会的共通資本について、赤字か黒字かを厳しく求めるというのは、新自由主義的な論調に影響され過ぎたところもあると思います。・・・・・公が求められる部分はきちんと責任を持ってやらなければなりません」(同、93-94頁)
 
「政と官の癒着が作りあげた『特』関係こそが“天下り”と“渡り”の温床です。…この構造がそのまま税金にムダ遣いに直結しています。…… “渡り”は根絶すべきです」(同、110-112頁)
 
「道州制といっても、『道』や『州』が強大な権限を持ち、その下に市町村が従属するようなシステムでは意味がありません。…私としては、基礎自治体、つまり市町村に権限と財源を集中すべきだと思っています。受益と負担の相関関係が一番見える自治体は市町村です。そのう上で、基礎自治体だけではできない部分を補っていく広域行政として道州制を取り入れる選択肢を残すべきではないかと思います」(同、155頁)

***引用終わり********


財政再建と増税問題
 
 さて野田さんが財政再建主義者であり、増税を何としてもやりたい、これは明らかだ。しかし、彼は同時に増税をするならば、まず政官が率先してムダを削減しなければ国民が納得しないということも強調している。納税者としては、この言質を盾にして、政と官が天下りや渡りを根絶し、癒着ムラ政治を解体しない限り、増税には決して首を縦に振らないぞと要求すべきだろう。

 次の順序で議論せよ。①まずムダな予算を復興予算と脱原子力のための代替エネルギー振興予算に可能な限り転用せよ、②次に累進課税率の強化など富裕層に課税せよ、③それでも足りないという場合にのみ消費税増税を議題にせよ、と。

 不要不急のダム予算(今年度一般会計で2400億円)を震災復興や原発事故対策に転用してほしいという要望が出されているが、国交省は粛々とダム予算を執行し続けている。ダム予算が復興予算に転用されても、結局、予算の多くは国交省を通して配分されるのだから、国交省の省益とも矛盾しないでしょ、何でそれができないの、と思う。国交省の省益には反せずとも、旧河川局(現在、水管理・国土保全局と改名)の局益に反する。縦割り政治の硬直的な体質は、かくも柔軟性がなくなって、末期的なのである。こうした不要不急予算の抜本見直しができない限り、決して増税なんか安易に認めてはならない。国民が厳しく監視すべきである。

原発問題

 野田政権は原発を推進するだろうという危惧は大きくなっている。しかし、これも世論次第であると思う。少なくとも野田さんは根っからの原発推進論者ではないようだ。

 震災前の2009年に書かれた前掲書で、野田さんは「特別会計のムダ使い」の具体的事例として「電源開発特別会計」をあげていた。そしてムダの具体例として三つ例が上げられているが、いずれも原発や核燃さサイクルの広報予算を批判している。
 たとえば、以下のように書いている。

 「資源エネルギー庁は、原子力への取り組みを紹介するホームページの製作費として、年間三億円の予算を計上しています。経済産業省全体のホームページの年間運営費は約130万円です。それに比べると常軌を逸しています」(野田佳彦、前掲書、101頁)
 
 アメリカで「原子力ルネッサンス」「温暖化対策の切り札」などと騒がれ、原発批判がタブーのような雰囲気があった2009年当時の状況で、あえて原発や核燃サイクルの広報予算をムダの筆頭にあげていたのだ。これは勇気のある発言だったと思う。事故が起こる前に、堂々とこうした主張ができる国会議員は少なかったのではないだろうか。少なくとも野田さんは消極的原発容認論であっても、積極的推進論者ではないし、原子力ムラ利権に汚染されていなかったことは上記発言で明らかだ。

 野田さんはムダを削りつつ新技術のフロンティアなど出すべき分野には出すとハッキリと言っている。具体的なフロンティアとして「宇宙」と「海洋資源」をあげる。道路やダムなどの不要不急予算を新エネルギーの振興のための公共投資予算に転用するという姿勢でもあるので、皆で声を大にしてそうした姿勢を後押しすべきだろう。代替エネルギー開発の見通しがたったので、脱原発は可能になりそうです、と野田さんが言えるようになることがベストだろう。
 菅さんのように口だけで「脱原発」と言いながら実際の政策遂行能力がないというよりも、「動かせる原発は動かす」と言う野田政権において、一つ一つ精査した結果、実際にはほとんど動かせませんでした、また動かす必要もなくなりました、となる方が結果はオーライだろう。

政策調査会

 前原さんが政調会長に就任し、民主党の政策調査会の機能は強化されるらしい。今から考えると、民主党政権で政策調査会が廃止されたことは大失敗だった。内閣一元化だ内閣主導だと政務三役が勇んで各省庁に入ったものの、官僚たちによいように手玉に取られて、まったく政治主導が機能しなくなってしまったのだ。だいたい勉強不足の議員たちを五人ぐらい各省に送り込んだところで、官僚機構に勝てるわけがなかった。はじめから勝負は見えていた。400人も国会議員を抱えながら、閣外の議員たちが政策立案に関与できなくなり、政務三役と官僚たちのドタバタ劇を、外野で手をこまねいて見ているしかなくなってしまった。

 前原さんが参考にすべきは、亀井静香さんが政調会長だったときの自民党だろう。亀井さんは、政調会長の権限で不要な公共事業2兆7000億円をバッサリと切った。旧建設省には晴天の霹靂だっただろうが、もちろんこの国の最高権力機関は議会であって、官僚ではない。議員が政策を決め、官僚はそれに従えばよいのである。大臣が省内でいくら頑張っても、官僚の術中にはまって何もできなくなることはこの2年でハッキリした。各省の外で議員主導で政策形成を行い、各省を包囲すべきなのである。

 前原大臣のイニシアティブで始まった全国の84ダム計画での再検証など、市民を排除したまま、荒唐無稽な費用対効果の計算をして、ダム案を押し付けようとしている茶番劇である。前原さんは国交大臣時代に官僚にしてやられ、このシナリオに乗せられてしまったのだ。国交省が捏造している法外な基本高水や水需要予測を見直すことから始めなければ、そして河川法を改正しなければ、この国でまともな河川管理などできない。

 民主党の政策調査会の中に、官業学のムラ社会とは無縁な、議員と国民によるダム再検証チームを作るべきだろう。場合によっては中立な立場の外国の専門家も加えればよい。何せ日本国内の専門家はほぼムラ利権に毒されているから・・・。前原さんは、国交大臣時代に官僚にしてやられた苦い経験を教訓に、政策調査会をちゃんと機能させてほしい。

財務省の言いなり?

 野田さんは財務省の言いなりではないかと言う人もいる。ならば財務省を味方につけて、虚偽、捏造、ムダと利権の伏魔殿というべき国交省と経産省をターゲットに闘ってほしい。最初から官僚機構を一気に改革しようとしてもムリだ。とくに害悪が甚だしい経産省と国交省の二省から手をつけるべきではないだろうか。一つでも改革できれば、歴史の歯車は前に進むし、野田政権の歴史的評価も高まろう。
 何よりも諸外国が、日本の政官業学報が癒着した民主主義とは名ばかりの利権政治の実態を知ってしまった。有り体に言えば、外国は日本をバカにしている、あるいは憐れんでいる。自力で政官業学報の癒着体質を改め、改革の成果を示さねば、失った信頼を回復できないし、これから先、外交どころじゃないだろう。

TPP

 これだけは止めてくれと切に願う。野田さんは当然TPPにも前向きなのだろうと思っていたが、意外にも代表選の過程ではTPPのことを一言も語っていなかった。地雷を踏まないように気を付けたのだろう。
 日経新聞や読売新聞あたりからは、さっそくTPPをやれの大合唱が起きている。彼らは被災地をさらに苦しめることが震災復興につながるという恐るべき詭弁を弄している。菅さんは政権を延命させるために安易にアメリカと財界とマスコミの神輿に乗ろうとしてTPP論議に乗っかってしまった。それが結果として菅政権の寿命を縮めたといえるだろう。野田さんはその失敗の轍を踏まないでほしい。

 野田さんは「小泉さんの規制緩和はアメリカのためだった」「教育とか医療といったいわゆる社会的共通資本については市場原理主義にゆだねてはならない」「基礎自治体に権限が集中すべき」と書いていた。これを決して忘れないでほしい。

 まさにアメリカの利益のために、教育や医療のような社会的共通資本にまで市場原理主義を強要し、法制度を全てアメリカンスタンダードで塗りつぶして生活者と向き合った基礎自治体の権限を空洞化させようというのが、TPPの明白な帰結である。野田首相はもちろんそれに賛同しないと信じたい。 

  


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