代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

森林破壊は政府の失敗か?

2005年01月18日 | 世界の森林問題
 「エコロジカル・エコノミクス」の林産物貿易自由化問題を扱った共著論文に関して、もう少し加筆したいと思います。
 私があの中で暗に訴えているのは、「熱帯林破壊は『政府の失敗』の結果であり、各国政府の森林ガバナンスがしっかりしていれば防げる問題である」という支配的言説に騙されるな、ということである。
 この言説は、簡単にいえば、東南アジアの森林破壊の責任をマルコスやスハルトやマハティールのような「独裁者」になすりつけてしまおうといことであり、先進国にとって非常に都合のよい理屈なのである(しかも、マルコス体制やスハルト体制を成立させたのに日米両政府の支援が決定的に重要だったという歴史的事実は棚上げにして!)。
 「政府の失敗」を強調したがる傾向は米国の研究者に顕著であるが、これは彼らの市場原理主義信仰、自由貿易主義信仰と表裏であろう。
 もちろん熱帯林破壊には、「政府の失敗」としての側面もある。しかしながら自由貿易システムの必然的帰結としての「市場の失敗」の側面の方が、より濃厚なのである。米国人の多くが、「政府の失敗」ばかり強調したがるのは、「市場の失敗」の側面を覆い隠したいから、あるいは人々の目をそこから逸らしたいからである。

 思い出してほしい。アジア通貨危機の後、米国のマスコミは何と報道したか。「通貨危機の原因はアジアのクローニー資本主義の制度にある」、このような報道ばかりであった。「金融自由化は万国に利益をもたらす」というイデオロギーを万国に押し付けていた当時の米国政府にとって、金融自由化問題とアジア通貨危機の関連を指摘されることは何としても避けねばならなかった。
 だから彼らは、スハルトやマハティールに全ての責任を転嫁するため、「クローニー資本主義が悪い」という言説を湯水のようにタレ流したのである。日本のマスコミも、通貨危機の当初は、その言説をそのまま信じて受け売りしていた。
 さて熱帯林の話に戻るが、「持続可能な森林管理はガバナンスの問題である」という米英発のテーゼは、各国の研究者に確実に浸透している。とくに日本のように、学問の世界全体が米英の半植民地状態にあると、研究者のほぼすべてがそのテーゼに追従してしまうのである。かくして、林産物の関税問題など学問の俎上にのらないことになる。
 
 私は、天然材の輸出国は輸出関税を、木材輸入国は輸入関税をかけることによって木材の供給を天然林から人工林にシフトさせることができ、結果、持続可能な森林経営を実現できると考えているので、そのように書いた。関税措置も含めた貿易の計画的管理を抜きにして、持続的森林管理は不可能であると思う。

 意外なことに、私たちの論文は海外では非常に評判が良かった。(もちろん新古典派経済学者からの反撃は予想されるが・・・)。
 米国発の言説にのせられず、思考の独立性を保持することが、海外からも高い評価を得られる研究をすることにつながる。ちなみに、その共著論文を書いた3人の中で、米英への留学経験者はいない。私は留学経験があるものの、留学した国はフィリピンである。熱帯林の研究をしたかったのだから、熱帯林のある国へ行った。米国へ行く必要など皆無であろう。
 日本のアジア地域研究者は、やたらとコーネル大学など米国の大学に留学したがるのだが、私にはこの理由が全く理解できなかった。東南アジアを研究したいと思えば、その国に行けばよいものを、何故アメリカなのだろうか? 私は大学時代、日本人研究者のそうした趣味が非常に滑稽だと思ったので、「決して米国にだけは留学すまい」と心に誓ったものである。

 米英発の「流行」に追従するだけの日本の多くの研究者(とくに社会科学系でその傾向が顕著である)には、真剣に考え直してほしいと思う。米国の「最新」理論など追いかけていても、独創的な研究成果など決して生まれないということを。左右双方の精神構造が同じく米国の大学の権威に圧倒的に弱いというような状況では、日本が今のような植民地状態から脱することも不可能であろうことを。

 「反米」的な発言をする日本の知識人からして、エドワード・サイードやノーム・チョムスキーなど、米国におけるエスタブリッシュメントの大学人の権威に寄りかかって発言するあたりが、親米保守派の知識人と同じ精神構造をしている証拠であろう。
 かりにサイードが、米国におらず、パレスチナ在住で同様な研究をしていたとして、はたして日本の知識人は同様な評価を与えただろうか? 私には甚だ疑問である。
    

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