村を丸ごと飲み込み1400人あまりが行方不明となっているフィリピン・レイテ島の地すべり災害と上流域の違法伐採の関係が論議を呼んでいます。地元住民は違法伐採を非難し、レイテ島の環境省は「違法伐採はあり得ない」と語り、あくまで自然災害との立場を主張しているそうです。(『毎日新聞』2月21日朝刊)。毎日新聞の大澤文護記者は現地まで飛んで精力的に取材しており、その報道姿勢は評価できます。
もっともフィリピンでは2004年12月にもアウロラ州の洪水災害で1300人以上が亡くなりましたが、あのときは日本のマスコミはほとんど報道しませんでした。あの洪水に関しては、違法伐採と洪水の因果関係は非常に明瞭だったと思います。
私はレイテ島を訪れたことがなく、現地でどの程度森林が残っていて、違法伐採がどの程度深刻なのかはよく分かりません。ただ、おそらくは地元住民が声をそろえて証言しているところを見ると、いまだに地元では違法伐採があるのであり、州の担当者は自分たちに責任が降り掛かるのを回避するために「違法伐採はない」とウソを述べているであろうことは容易に想像できます。
私は90年代の後半にルソン島の北部のイサベラ州の違法伐採が盛んな地域で調査していました。私は社会科学系の研究者なので斜面崩壊や地すべりを研究しているわけではありませんが、経験的には、違法伐採と洪水・斜面崩壊の因果関係は明確に存在すると思っています。写真は、昨年末に出た私の著書の『複雑適応系における熱帯林の再生 ―違法伐採から持続可能な林業へ』(御茶の水書房)の口絵に掲載したものです。
上の写真は1997年に撮影したもので、違法伐採者たちによってラワンなどの有用樹木が全て切り尽された後の写真です。違法伐採者たちは市場価値のあるラワンなどのみを伐採するので、雑木は残されております。しかし、樹木密度の低い二次林となっています。
下の写真は、1999年に同じ尾根を撮影したものです。(撮影の角度が異なっていますが同じ尾根の写真です)。あちこちで斜面崩壊が起きています。ラワンなどの主要樹種がなくなった伐採跡地の斜面は崩壊を起こしやすく、大きな台風がくるとひとたまりもなく崩れてしまうのです。
上流域のあちこちで発生する斜面崩壊によって大量の土砂と流木が河川に流れ込み、下流を洪水が襲います。1998年10月の台風では、私が調査をしていた村も20世帯ほどが洪水に飲み込まれて流されてしまいました。(幸い、人々は事前に避難していて死者は出ませんでしたが)
私の調査地では、地元の町長が違法伐採のビジネスで儲けており、地元の環境天然資源省の役人も違法伐採業者からの贈賄を受け、それを見逃しておりました。ですので、いざ洪水が起きても、「違法伐採はない。これは天災だ」とウソの強弁をするわけです。
もっとも、今回のレイテ島の大規模な地すべりに関しては、この写真のような表層崩壊ではなく、もっと深部から山が動いているでしょうから、森林状態が良好であったとしても発生していたかも知れません。(森林があれば防げたかも知れません。私にはよく分かりません)
現場では2月に入ってから2週間で500ミリも雨が降ったそうです。フィリピンで2月から5月はもっとも雨が降らない時期なのです。この時期に500ミリの雨が降るということが、そもそも信じられないことです。根本的に地球がどうにかなってしまっているとしか思えません。
抜本対策は、森林再生と同時に、人類が石油文明から毅然として決別し、新エネルギー文明を構築し、地球温暖化を根本的に抑えることでしかないのでしょう。
<追記(3月4日)>
下記の3団体でレイテ災害に対する緊急支援を呼びかけているそうですので、ご参照ください。
AMDA http://www.amda.or.jp/
日本赤十字 http://www.jrc.or.jp/
ICAN http://www.ican.or.jp/
もっともフィリピンでは2004年12月にもアウロラ州の洪水災害で1300人以上が亡くなりましたが、あのときは日本のマスコミはほとんど報道しませんでした。あの洪水に関しては、違法伐採と洪水の因果関係は非常に明瞭だったと思います。
私はレイテ島を訪れたことがなく、現地でどの程度森林が残っていて、違法伐採がどの程度深刻なのかはよく分かりません。ただ、おそらくは地元住民が声をそろえて証言しているところを見ると、いまだに地元では違法伐採があるのであり、州の担当者は自分たちに責任が降り掛かるのを回避するために「違法伐採はない」とウソを述べているであろうことは容易に想像できます。
私は90年代の後半にルソン島の北部のイサベラ州の違法伐採が盛んな地域で調査していました。私は社会科学系の研究者なので斜面崩壊や地すべりを研究しているわけではありませんが、経験的には、違法伐採と洪水・斜面崩壊の因果関係は明確に存在すると思っています。写真は、昨年末に出た私の著書の『複雑適応系における熱帯林の再生 ―違法伐採から持続可能な林業へ』(御茶の水書房)の口絵に掲載したものです。
上の写真は1997年に撮影したもので、違法伐採者たちによってラワンなどの有用樹木が全て切り尽された後の写真です。違法伐採者たちは市場価値のあるラワンなどのみを伐採するので、雑木は残されております。しかし、樹木密度の低い二次林となっています。
下の写真は、1999年に同じ尾根を撮影したものです。(撮影の角度が異なっていますが同じ尾根の写真です)。あちこちで斜面崩壊が起きています。ラワンなどの主要樹種がなくなった伐採跡地の斜面は崩壊を起こしやすく、大きな台風がくるとひとたまりもなく崩れてしまうのです。
上流域のあちこちで発生する斜面崩壊によって大量の土砂と流木が河川に流れ込み、下流を洪水が襲います。1998年10月の台風では、私が調査をしていた村も20世帯ほどが洪水に飲み込まれて流されてしまいました。(幸い、人々は事前に避難していて死者は出ませんでしたが)
私の調査地では、地元の町長が違法伐採のビジネスで儲けており、地元の環境天然資源省の役人も違法伐採業者からの贈賄を受け、それを見逃しておりました。ですので、いざ洪水が起きても、「違法伐採はない。これは天災だ」とウソの強弁をするわけです。
もっとも、今回のレイテ島の大規模な地すべりに関しては、この写真のような表層崩壊ではなく、もっと深部から山が動いているでしょうから、森林状態が良好であったとしても発生していたかも知れません。(森林があれば防げたかも知れません。私にはよく分かりません)
現場では2月に入ってから2週間で500ミリも雨が降ったそうです。フィリピンで2月から5月はもっとも雨が降らない時期なのです。この時期に500ミリの雨が降るということが、そもそも信じられないことです。根本的に地球がどうにかなってしまっているとしか思えません。
抜本対策は、森林再生と同時に、人類が石油文明から毅然として決別し、新エネルギー文明を構築し、地球温暖化を根本的に抑えることでしかないのでしょう。
<追記(3月4日)>
下記の3団体でレイテ災害に対する緊急支援を呼びかけているそうですので、ご参照ください。
AMDA http://www.amda.or.jp/
日本赤十字 http://www.jrc.or.jp/
ICAN http://www.ican.or.jp/
収益を得ている、それはどうすればいいのか…
僕自身が小説の形で描いている理想未来社会に
ついても、配給などにはどうしてもものすごい
腐敗があるのではないか、という危惧を感じています。
かといって、闇経済と戦う!というのも禁酒法の
ようにろくなことにならない可能性が高いです。
本当にどうすればいいのか…頭を抱えるばかりです。
収益を得ている、それはどうすればいいのか…
フィリピンでは政治家の違法行為なんて日常茶飯です。政治家なんてヤクザみたいなもんで、気に入らない対立候補は暗殺しちゃうなんてことが平然と行なわれていますから。私が前にいた某州では、選挙期間中に対立候補を殺しちゃった州知事が懲役刑を受けていたのに、次の選挙で獄中から立候補して勝っちゃったなんて例もありました。
最近は労働運動家や農民運動家やジャーナリストなどが次々に暗殺されています。「言論」への弾圧が行なわれる中国とは別次元の、「暗殺」という人権弾圧が半ば公然と行なわれているのがフィリピンなのです。いくら民主主義があるといっても、これじゃあ人々は幸せではありません。
フィリピンの場合、「強い政治・大きな政府」が行なわれた結果としての腐敗ではなく、まったくその逆で小さな政府を突き詰めていった結果としての腐敗だと思います。官僚は給料が低くて規律がないので、汚職に手を染めないと生きていけないという事情もあります。(もちろんそういう状況を憂い、汚職に手を染めずに頑張っている清廉潔白な官僚の方々もたくさんいます)
「大きな政府」を突き詰めてソ連みたいになっても最悪ですし、「小さな政府」を突き詰めてフィリピンみたいになっても最悪です。その中間をどうやって模索するのかが問われていると思います。
違法伐採と有力者との癒着、改善する上での問題は山積みなのですね。
なんとかネット復帰です.といっても新居は光ファイバ工事が間に合わず56Kモデムのダイアルアップというああ懐かしの状態なので,しばらくは「ぼちぼち」という具合です.
>(森林があれば防げたかも知れません。私にはよく分かりません)
重たいテーマです.僕もこれを解きたい.森林に万全の土砂保全機能をもとめて無批判に論を展開することの愚は重々慎みたいものですが,さりとて森林にはまだ僕たちが知らない効能があることはたぶん間違いないのです.
>この時期に500ミリの雨が降るということが、そもそも信じられないことです。根本的に地球がどうにかなってしまっているとしか思えません。
何年分のデータをみてそうおっしゃっているのでしょう?
どの程度の期間の「平均的気候」にあわせてフィリピン社会が形成されているかという問題でもあるのですが.
そうそう,そういえば田中さんのblogにもフィリピンネタがありましたね.僕はこの話の真偽は知りません(まだ調べていない)が,ご紹介:
http://blog.goo.ne.jp/2005morikoro/e/2d19490db647edf96d3a07dafe08564a
あらためてご結婚おめでとうございます。
>何年分のデータをみてそうおっしゃっているのでしょう?
http://forests.org/articles/reader.asp?linkid=52711
↑ この記事によれば、被災地付近の過去30年間の2月の平均降雨は120mmくらいだそうです。
じつは、もっと少ないだろうと思っていたのですが、意外に多かったです。レイテの東海岸は、熱帯湿潤気候に属するので、2月もけっこう雨があるようです。(フィリピンでは大部分の地域が熱帯モンスーン地域に属でしているので2月といえば雨がほとんど降らない(平均でも10から20mm程度)のところが多いのです)
今回、2週間で500mm降った原因に関しては、ラニーニャ現象によるものだと説明されています。
ちなみに南レイテでは、2003年12月にも地すべりと洪水で大きな被害が生じています。そのときは3日間で699mm降ったそうです。ちなみに過去30年間の12月の平均降雨は178mmだそうです。このときの災害に関しては、政府のHPでも公式報告が出ています。下記ページです。↓
http://www.mgb.gov.ph/leyte-surigao/leyte-surigao_geoperspective.htm
異常な降雨、活断層、急傾斜、森林消失が地すべり災害の要因としてあげられ、対策として早期警報システムの導入と植林の必要性が挙げられています。
2003年の災害の教訓は今回も活かされなかったようです。
田中さんのブログにもこの記事をTBしておきます。
私も来月はちょっと中国の植林地で調査してきます。
私の「薄っぺらい」よもやまブログにトラックバックありがとうございます。
興味深く読ませていただきました。
いろいろ癒着とかあるんですね・・・。
この報道から現在までの間に、フィリピン自体がいろいろ混乱してしまいましたが、ちゃんとこの地域が災害から復興していくことを祈るばかりです。