代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

赤松小三郎「御改正口上書」と坂本龍馬「船中八策」の比較 ―その2

2010年03月21日 | 赤松小三郎
 ついで、小三郎は天皇を補佐するところの内閣と閣僚について論じる。

*****<引用開始>**********

第一天朝に徳と権とを備へ候には、天下に侍する宰相は、大君、堂上方、諸侯方、御旗本之内、道理明にして、方今の事務に通じ、萬の事情を知り候人を選みて、六人を侍せしめ、一人は大閣老にて国政を司り、一人は銭貸出納を司り、一人は外国交際を司り、一人は海陸軍事を司り、一人は刑法を司り、一人は租税を司る宰相とし、其以外諸官吏も、皆門閥を論ぜず人選して、天下を補佐し奉り、是を国中の政事を司り、且命令を出す朝廷と定め、

*****<引用終わり>**********

 小三郎は国政を担当する6人の大臣の必要性を論じる。現代の言葉に置き換えれば、首相(大閣老)、大蔵大臣、外務大臣、軍務大臣、法務大臣、国税局長となる。以上6省の大臣は、将軍、公卿、諸侯、旗本の中から「道理明らかなる」人物を選出するとしている。後で書かれるように、各大臣を選出するのは議会である。
 よく、小三郎は幕府よりであったから暗殺されたように言われる。しかしこれを見れば、そうでないことは明らかであろう。小三郎の構想では、徳川将軍家は、その特権的地位を失うことになる。道理が明らかであれば将軍が大臣に選出される可能性もあるが、将軍でも自動的に国政に参与できるわけではないのである。小三郎の構想の中では、将軍は天皇を補佐する諸侯の一人という位置づけになろう。よって「将軍」という存在は消滅する。

 以上6人の大臣の下で働く各省の官僚は、門閥を論ぜずに人選する。つまり士農工商の身分制度はなくなり、能力があれば誰でも官吏になれる。赤松は、おそらく現実的妥協として、大臣クラスは貴族から選出されるが、各省の実質的事務は、一般の人民から選出した官僚によって担わせ、貴族政治の悪弊に陥ることなく、公正で迅速な行政が遂行可能であると考えていたのだろう。
 坂本龍馬の「船中八策」では、首相と大臣については何も述べられていない。「有材ノ公卿諸侯及天下ノ人材ヲ顧問ニ備ヘ、官爵ヲ賜ヒ」とあるが、「顧問」というのはいかにも曖昧である。

 さて、いよいよこれからが、小三郎の論じる議会政治である。小三郎の中では、民主的な選挙で選ばれた議会こそが国家の最高機関と位置付けられており、この建白書の最も重要な核心部分になる。
 
*****<引用開始>***********

又別に議政局を立て、上下二局に分ち、其下局は国の大小に応じて、諸国より数人の道理の明かなる人を、自国及隣国の入札にて選抽し、凡百三十人に命じ、常に其三分之一は都府に在らしめ、年限を定めて勤めしむべし、其上局は、堂上方、諸侯、御旗本の内にて、入札を以て人選して、凡三十人に命じ、交代在都して勤めしむべし。

*****<引用終わり>***********

 議会(議政局)は、上院(上局)と下院(下局)に分けられる。上院は貴族院、下院は衆議院に相当する。小三郎が、定数130人の下院から先に書きはじめ、定数30人の上院を後で論じていることは、衆議院に相当する下院を重視している姿勢の表れであろう。

 定数130人の衆議院である下院は、身分は一切問わず、「入札にて選抽」、つまり普通選挙によって選出される。選挙区は、「諸国及び隣国」となっている。これは基本的に各藩を選挙単位とするが、人口に応じて選挙区割をするため、数万石程度の小藩は、いくつか束ねて一つの選挙区とするということである。

 定数30人の貴族院としての上院は、朝廷と各藩と幕府の融和の象徴として、公卿、諸侯、旗本の中から選出されるが、これも選挙である。門閥さえあれば誰でもなれるわけではなく、選挙の洗礼を受ける必要があるのだ。

 坂本龍馬の「船中八策」では、「上下議政局ヲ設ケ、議員ヲ置キテ万機ヲ参賛セシメ、万機宜シク公議ニ決スベキ事」となっている。先進的な内容であるが、議員がどのように選出されるかについては何も述べられていない。赤松は明確に「入札(選挙)」と述べる。

(つづく)

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