ぬむむ、うわずってましたなあ、『紅白歌合戦』司会の松下奈緒さん。全体的に。
『ゲゲゲの女房』ヒロイン起用のきっかけは、チーフP&Dがドキュメンタリー番組で耳に留めた“落ち着いた声質”だったというオトコマエヴォイスの松下さんですが、やっぱりあれだけの大バコに客席満員、応援団ぎゃあぎゃあ、背景装置は始終ガタゴト入れ替え、スタッフはどかどか走り回ってるし、合間でMCしてても自分の声がよく聞こえないんでしょうな。どうしてもともすれば“張り上げ声”になってしまう。アーティスト名も結構、言い切れてなかったりしませんか。どりーむ“ズ”Come Trueなのに「どりーむかむとぅるー」って言ってたし。主語が三単現になると動詞に-s‐がつくんだぞ。“あんじぇら あき”も怪しかった。
その点、嵐は、気心の知れた同士が5人集まってる強みで、少しゆるいんじゃないかってぐらい落ち着いて見えました。バラエティでなくバラ売りでなく、お揃いの衣装の嵐の歌と踊りを、フルで視聴したのは初めてのような気がしますが、あれだな、グループアイドルとしては巷間言われるほどの迫力はないな。からっ下手でないのはわかるけど、佇まいが二次元的というか、平板な気がする。デビュー11年か。1988年結成、91年デビューのSMAPの、1999~2002年頃はこんなもんじゃなかった。
メンバー中いちばんの年かさ同士で比べれば大野智(さとし)さん1980年生まれ、中居正広さん1972年生まれで8歳差。ヤンゲスト同士なら松本潤さん1983年生まれ、香取慎吾さん1977年早生まれで7歳半弱差。大した違いじゃないようにも思うけれど、少年から青年へ、さらに中年へという時期をアイドルとして露出し続けていくと、やはり大きな質感の差になっていくようです。バブルをはさんだ11年間と、おおかたミレニアム後の11年間とでは、男の子アイドルの歩く道を取り巻く風景も変わった。
…しかし、こうしてざっとプロフィールを見て行くと、嵐って全員、松下奈緒さん(1985年生まれ)より年上なのね。松下さんが年上顔なのか、あるいは、やはり、「アイドルは老けるのが難しい」と言うべきか。
直前に話題をさらった桑田佳祐さんの中継ゲストインは、結局誰か得した人はいたのだろうか。いや、月河なんかは、そう高体温じゃないけど、10代から常に人生の傍らに桑田さんの曲があった世代のひとりとして、「無事に声出せるようでまずはよかった」とは思うことができるのですが、とにかく1978年のサザンオールスターズデビュー以来、30余年にわたり邦楽シーンの先頭集団をキープしてきた人。その人があれだけ“病みあがり感”に満ち満ちたルックスで一生懸命扇子踊りしたりバニーガールとからんだりして見せてくれると、有難みはあるんですよ、あるんですけど、どうしても“頑張った昭和おっさんの、最後のチカラふりしぼっての、もうひと花”という空気が漂ってしまう。
さなきだに明るくなかった1年を締めくくり、来たるべき新しい年を展望して皆で元気になろうという目論みの、超大型番組の話題賞クライマックス人選として、あれはアリだったのだろうか…という気がしてなりません。もともと、ぼんや…いやその、アバウトな顔立ちの人で、輪郭サイズがデビュー当初期に戻っただけとも言えるけど、肌に張りがなくなると出る独特の妙なしわが口の周りに出まくりだし、稚気とシャイさに狂気をまぶしたトレードマークのシャウト目剥き顔になると、目周りの落ち窪みも露わに。
そして何より、ボートピープルか脱北者かというあの歯の色ばっかりはもうね。出演決まった時点でどうにかできなかったのかな。歌い手さん喋り手さん、クチ動かしてなんぼの職業の人は、歯が汚くなるとガツンと“過去の人”感が強まります。ましてお茶の間もめっきりデジタル大画面の時代。チョコレートとか、食べ物系のCM来なくなるだろうに。
つくづく思う、“昭和”は重く、長く、濃く、パワフル過ぎた。AKBとかいろいろ、“平成しか知らない”年代のアーティストもがんばっているけれど、やはりエンタメのここ一番というところでは、郷ひろみさんとか加山雄三さんとか、“昭和”を何としてでも引っ張り出してこないと、如何せん間が持たないのです。
そして昭和は年年歳歳、日々刻々、老い、衰えて行く。2曲終わって垂れ幕も出て、NHKホールへのブリッジに「次は石川さゆりです」と言ったところがいちばん、やっと気兼ねなく笑えましたね。まだ台本入るぞと。『紅白』のような、回顧含みのオールスター番組では、“ここ一番盛り上げようと仕掛ければ仕掛けるほど、観てて一抹、気が滅入る”傾向は当分続くでしょう。
FMで断片的に小耳にはさんでいた植村花菜さん『トイレの神様』は、確かに素直でいい曲、好感持てる歌唱だけど、いかにも長い、長すぎる。もう感動の歌だということがわかっているので、途中で飽きる。あれでも短縮ヴァージョンだったらしい。要するに“いい孫でなくてお祖母ちゃんごめんね”ってことなのか“小3からお祖母ちゃんと暮らすような複雑な家庭事情の子供だったショボーン”なのか“いまだにトイレ掃除で別嬪さんになりたいと微量思ってる自分、笑ける”なのか。
“要するに”って、要しちゃいけないのかな。とにかく前々回のジェロさんでも思ったけれど、世の中高齢化社会なので、子から親へより、孫から祖母(祖父より断然祖母)への思いのほうが、感動させやすいことは明々白々です。
最後まで聴かないと意味が完食できないじっくりした楽曲もいいけれど、やっぱり短時間でどわーーとテンション上げてストン!と終わる“瞬発力”もエンタメ音楽には欲しいところ。ドリカムも演出ともどもしつこかったですね。氷川きよしさんが思い切り良くB級全開で楽しかった。歌唱力に余裕のある、ただ歌うだけでどうにでもできる人こそが、あえてB級をやって映えるんですよね。松平健さんがサンバやったぐらいの年代になったらどれくらい“南方”へ行くんだろう。腰ミノ着けて槍とか持って踊るかも。
松下奈緒さんもおなじみのいきものがかりの歌で、源兵衛お父さんミヤコお母さんと並んで聴けてやっと本調子を取り戻せたかなと思ったらもう終盤でしたな。古手川祐子さんのセルリアンブルーの着物が美しかった。大杉漣さんは相変わらずモノトーンお洒落。
『紅白』も回をかさねて61回だそうですが、なんとなく、この先もう61年は続きそうな気もしてきた今回でした。とりあえず、いまAKBやAAAといったアルファベットユニットの客になっている若い衆が、お父さんお母さんになるまでは安泰で続くのではないでしょうか。“歌”と“歌がらみ”で年の瀬という企画、気がつけばNHK以外のTV屋さんたちはみんな下りているんですよね。『レコード大賞』も一日ずらされたし。
ただ、放送形態は変わるでしょうね。放送より“配信”が中心になるかもしれないし。中国・韓国との相乗り番組になっているかもしれません。