『カーネーション』の余韻にひたったり『特命戦隊ゴーバスターズ』を心配したりしているうちに、気がつけば…っていつまで気失ってたんだ!余韻がさめる間もなく『梅ちゃん先生』が4月卯月とともに始まってますが、いかがでしょう。『カーネーション』からなかなか脱皮できない皆さん、見てますか。“カビ生えても咲き続ける”根性のカーネーションのフェードアウトを待ちきれず、梅も咲いちゃいました。
ヒロイン梅ちゃん役=堀北真希さんのつやつやお肌とキラキラおでこが焼け跡オープンセットに眩しい。くりっとした目鼻立ち、キリッ!パリッ!と元気全開でなく、基本ポジティヴな中にもほわらんとした雰囲気。たぶんヴィジュアル的には、ここ数年でいちばん朝ドラヒロインらしい朝ドラヒロインではないでしょうかね。どの作品に出てもこんなんというわけではなく、民放ドラマではいろいろな役をすでに経験済みのようですが、そういう、ほどほど定着した認知度のもたらす安心感も、朝にふさわしいと言えばふさわしい。顔見るのも声聞くのも今作が初というド新人さんが出ずっぱり主役だと、演るほうがいちばんそうでしょうが見るほうも結構、緊張を強いられるもんです(同じ朝でも学校がない、大きなお友達には出勤のない日曜朝の、スーパーヒーロータイムの仮面ライダー諸君やスーパー戦隊の面々は、毎年毎作、この“お初”緊張感を、vs怪人、vs悪の組織との戦いドラマに転移させる作戦で引き込むわけです)。
しかしまあ、堀北さんは頑張っていると思うけれども、OP主題歌がSMAPというだけで開口一番“これは、それほど一生懸命観なくていいドラマだよ”オーラ出まくってますな。さしたる特徴のない声質の男性ヴォーカルが一節ずつ歌いつないで、ソロ以外のメンバーが♪うぉおお とか合いの手コーラス入れてる、隙に満ちた歌唱スタイルがそう思わせるのか、SMAPというグループの“アイドル大御所”“余勢”“惰性”感のせいなのか。
梅の花びらが舞い散る梅ちゃん/ 先生のタイトルロゴといい、スタッフ・キャストクレジットのピンク縁取り白文字の字体といい、漂う雰囲気は『ちびまる子ちゃん』風アットホーム、ご近所&スクールグラフィティ。正枝お祖母ちゃんはSKD出身で元祖ナイスバディの倍賞美津子さん、お母さん芳子さんは元・芥川賞作家夫人で現・ハリウッド俳優夫人の南果歩さん、優等生の松子お姉さんはデビュー作月9主演のミムラさんで、竹夫お兄さんは慶應ボーイの小出恵介さんと、背景は焼け跡闇市でもなんともキラキラした顔触れの家族ですが、OPの町並みジオラマと人形のイメージもあって、漫画にすると全員3頭身ぐらいになりそう。
そんな中、丸顔丸頭に丸メガネ、漫画にしなくても漫画っぽいヴィジュで、ヴィジュと真逆な融通利かない謹厳教授の建造お父さんを演じる高橋克実さんがひとり異彩を放っておられますな。いつボケるか、お父さんが映るたびに手を止めて観るんですがなかなかボケてくれませんね。お隣さん安岡家のご主人が片岡鶴太郎さんで、何事も“智”本位な下村家とは対照的な、腹巻きステテコの典型的町工場ブルーカラー父ちゃんなので、学者と職人、“噛み合わなーい丁々発止”なんか期待したんだけど、いまのところそれもなし。
『フルスイング』とか、『官僚たちの夏』、あと『平塚八兵衛の昭和事件史』など、近年月河がお見かけするときはなぜか決まって“丈夫そうなのに早死に”な役の高橋さん、今度は梅ちゃんが一人前のお医者さんになるまで、そばで見守ってくれるお父さんだといいのですが。なることはわかっているんですからね。
“医者になれるか、なれないか”に関しては最初から答えが出ているに等しいので、過程のすったもんだ、出会い別れる人物たちをどうおもしろく見せるかにかかっているわけですが、なんか主題歌同様ゆるゆるで隙だらけです。ドイツ語の扇田先生役にせっかく美声の大和田伸也さんをキャスティングしたんだから、動詞変化全員暗誦できるまで帰さない!としごかれてる場面でもあれば、21話の山道荷車運びもちょっとしたほほえま感動シーンになったかもしれないし、22話のおくればせC班メンバー自分語りも、典子さん(西原亜希)さんの子持ち未亡人カミングアウトが唐突だったため興趣が半減してしまいました。他メンより明らかに年上そうな雰囲気をただよわせてはいた彼女ですが、もう少し隠させて、“講義後の付き合いが悪い”“生理周期や、小児のひきつけや下痢の症例にやけに詳しい”などをちらつかせておいて、お先走りの雪子(黒川智花さん)あたり主導で尾行でつきとめ、「隠すつもりはなかったけれど…」と秘めていた戦死夫との甘悲エピを語らせたりしたほうがおもしろかったのに。
江美(白鳥久美子さん)の秋田弁にしても、あれだけ記号的に田舎くさヴィジュな人が東京で、度を超えて無口だったら、たいがい訛りを気にしてに決まっている。前作でも次女直子(川崎亜沙美さん)が上京時気にしまくっていたし、絶賛再放送中(BSプレミアム月~土7:15~)『ゲゲゲの女房』でもこみち書房常連の太一くん(鈴木裕樹さん)がそうでした。なんのサプライズもない。視聴者の大方がそうだろうなと思っていたことを、足かけ何日何話後に本人のクチから説明させるとはなんとも芸のないこと。
“謎の陰気無口の理由は訛り”を劇中使うなら、逆に全メン中いちばん垢抜けてすっきりヴィジュのキャラで発動すべきでした。個人的には西原亜希さんの訛り芸を見たかったので、秋田美人未亡人じゃだめかな。江美さんはむしろ、見た目田舎くさでもドイツ語ペラペラとかさ。
「もっとヒネりを」。これだけ切に要望したい。ベタでも、隙ありありでも、堀北さんの肌ツヤ頼みでも、それが味と思えば味読はできます。しかしヒネりがないことには。フィクションなんだから、ヒネってなんぼじゃないですか。