こないだ節分で大小・和洋中さまざまな恵方巻が店頭に並びまくっていたと思ったら、もう極寒の当地でもガンガン雪が融けまくってまして、否応なしに波瑠が、いやさ春がずんずんずかずかと近づいてきました。
・・なんだか長嶋監督みたいな文章になってますが、『あさが来た』、ますます盤石ですねえ。気持ちいいくらいの盤石です。どこが面白い、此処が面白いじゃなく、面白くないところがさしあたって見つからない状態になってきた。劇中の誰が何を言っても、どんなアクションでどんな表情を見せても、そこに食いついて果てしなく思いを巡らせたり、世間話につなげたりできる。「へぇさんが成澤先生に“出て行け!”言っちゃダメでしょ~」「“あんたのせいやろ”言われたら自殺するよね」「『涙のアリア』歌ってたからクリスチャン、だから自殺はしないしょ」、あるいは「よのさんナイス横入り」「いやバッドタイミングじゃね」・・
・・こうなると、連続ものは最強です。毎日連続していますから毎日関心が途切れない。ここのところのNHK朝ドラ、好評作でもさすがに半年放送の中盤以降になると「この話もうお腹いっぱい」「この人の顏もう見飽きたんだけど」と思う回、時間帯がぽこぽこ出てきたものですが、『あさ』にはざっと見てもそれがない。スポーツで言えば「強い!」と言うより「負かしにくい」「負かし方が見つからない」「負ける形が想像できない」タイプ。全盛期の横綱白鵬、大鵬関とか、競馬ならテイエムオペラオーやマイル戦でのタイキシャトルみたいなやつですな。古いか。突出した派手さはないように見えて、その分取り返してお釣りがくるくらい、とにかく隙がない。
『あさ』がこんなにバリ盤石になったのが「なんでだす?」かと言うと、身もフタもないけど要するにヒロインがはなから裕福設定だったという事に尽きるでしょうね。あさ(波瑠さん)の実家は京都随一の豪商・今井家(モデルはのちに財閥となる三井家)、嫁ぎ先は大阪屈指の大手両替商・加野屋。カネがあるから、集まる人もモノも、情報も量質ともに当代一流、時代の荒波に揉まれても周囲からつねに一目おかれリスペクトされていますから、ヒロインの張りと誇りと自己評価が筋金入りです。どんな難題も「できる!」と信じてやみません。
偉い人、力のある人、磨いて鍛えてくれる人との出会いも、階級が上なんですからどんどん訪れます。いつもの朝ドラの、いつもの“名もない平凡な、どこにでもいる女の子”ヒロインにはこれができないのです。できるわけがないのになぜか御誂え向きな出会いやお手柄、脚光絶賛が降ってわいたりするから、いつもの朝ドラはとかく「ウソ臭い」「ヒロインに感情移入できない」とお叱りを受けるのです。
豪商嬢はんでも女に学問は要らないと言われて育つ時代ですから、学歴などはありませんが構ったこっちゃない。ソロバン帳簿、営業交渉の才はDNA。一歩間違えば御手打ちになるか、身上潰れるかという局面でもビタ一文、ナヨナヨヘコヘコしません。相手が新選組でも、大政治家でも、大富豪でも学者先生でもガンガン行きます。んでまた、「あの加野屋の」「あの白岡あささんか」「さすがだ」「噂通りだ」と相手もうち揃って興味津々でこっちを向いてくれます。
また、あさと反対に、婚家が本当に潰れちゃった姉のはつ(宮あおいさん)すら、大八車ひとつで夜逃げしてもへこたれません。キレた夫(柄本佑さん)とふて腐れた姑(萬田久子さん)との刃傷沙汰に身体を張るほど度胸満タン意気軒昂です。お嬢様育ちでお人形さんみたいな嫁かと思ったら、縫い物、藁仕事はもちろん畑仕事もこなすし、美味しい漬物も大得意。納屋の借り住まいでもしっかり子作りだってしちゃう柔らかしたたかさ、移り住んだ蜜柑の里の庄屋さんも「学があって、美しい」との惚れ込みようです。なんたって商都大阪の大店育ち、身なりは落ちぶれても身につけた教養の厚みが違うわけです。
ヒロインを“あらかじめ一頭地を抜く”位置からスタートさせることで、こんなにいろんなことが気持ちよく無理なく展開し盤石になるなら、なんで早くその手でいかなかったのか、なんで毎度毎度“どこにでもいる普通の女の子”設定にこだわっていたのかと首をかしげるほどです。
しかしながら『あさ』のいやまさる盤石さを見るにつけても、ひるがえって『まれ』の蛮勇を思わずにはいられない月河です。
(この項続く)