8月の坩堝
坩堝より洩れ来る思い掻き分けて生地に帰る無人の家に
古里は還らじの橋渡り行き捨てられるのか捨てて出るのか
八月の陽炎漂うその中に生地すたれてたたずみおれり
四囲開け海を見下ろす高台に生を閉じ込め二親眠る
海人はおのが意志もて墓所造る海の呼吸を臨める位置に
無理やりに満州シベリア連れ行かれ繰られて生きた慙愧閉じ込め
ちちははの御霊に逢いたし逢いたしと迎えのともし火夕べに灯し
在りし日を甦らせる盆の日はうちそと父母の幻影求め
盆踊り輪になり踊る踊り子に母のおもかげ見えかくれして
この夏を入れた坩堝を抱きしめて還らぬ時空を抜け出て戻る