世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

「月と雷」

2015年07月01日 | Weblog
帰りに喫茶店に寄った。超久しぶり。


読みかけの小説「月と雷」(角田光代)を読了できるか?と思っていたのだが、あと数ページのところで閉店時間になって読みきれず。
寸止め状態で帰宅し、ストッキングを脱ぐや否や、布団へ。足をルの字にして座り、鞄から本を取り出して一気にフィニッシュ。
いや~~~~~~、面白かった!!
何が面白いって、ダメ人間の自覚がある人間が、まともな生活をしている人間に対して感じるマイノリティというか、つい線引きをしてしまう心理が克明に描かれているところ。

直子→ダメ母
智→直子の息子。やはりダメ素質満載。
泰子→幼少期のころ、一時期、直子と智と一緒に暮らしていた。彼らの出現により、まっとうな生活を奪われたと思っている。

直子も最初からダメ人間ではなく、若い頃は貿易会社に勤務し、アフターファイブは銀ブラなんかをし、働きながら学校に通って簿記検定2級をも取得した。まっとうな人生を直子なりに生きていた。
しかし、不倫して身ごもって「妻とは別れる」という男の言葉を信じた頃から、堕落していった直子。

その時の胸中を、終盤、彼女は独白する。私が作中で一番衝撃を受けた部分である。
「あなたの赤ん坊だと言われて渡されたとき、泣きたいくらい戸惑ったことを直子は思い出す。
母親になりたいなんて一度も思ったことはなかった。
好きな男といっしょにいられたらいいなと、ただそれだけを思った。
その気持がどうしてこんな生きものに姿を変えるのか、直子には分からなかった。
ただだれかがなんとかしてくれるだろうと思うしかなかった。」

幼い息子の手を握り、慈悲深い男達の手から手へ、街から街へと渡っていくにつれ、ダメ度が上がっていく直子。

泰子の父が直子と智を拾ったことから、実母は家を出ていく。
一時期ダメ母子と堕落した生活をしていた泰子にもダメ要素は感染し、やがて大人になり、ようやくまっとうな人生を歩んでいたにも関わらず、そして逃げようとしつつも、かつての甘美なダメ生活(歯を磨かなくてもOK、学校に行かなくてもOK,食事はお菓子だけでOK)が忘れられずに、自らまっとうな道から外れていく。婚約者に対し、上記のようなマイノリティを、窮屈さを感じながら。泰子は結局あの母子のダメっぷりからは逃げられなかった。

直子は家事をまったくしない。たまに作るカレーも野菜が生煮えで、なぜか厚揚げが入っている。
作ったら放置をするので腐敗する。仕方なく息子の智が腐ったカレーを始末する。一日中テレビの前に座り焼酎を飲んでいる直子。
カレーすらまともに作れない直子の描写がこれまた上手で、きっと他の人ならば笑えるんだろうけれども、私は笑えなかった。笑えないばかりか、きっと将来の自分の何割かは直子的な要素で構築されているのだろうと読みながらぼんやりと思った。



直子が起こす小波程度の出来事が、波紋が広がるように周囲に影響を来たし、次第に他の人々を巻き込んで行く過程が凄く巧妙に書かれていた。
さすが角田光代。うまい、うますぎる。

映画化して欲しい。直子役は樹木希林しか思い浮かばない。





今日から文月。
仕事も月初で忙しかった。
人事通達を見て「後から来たのに 追い越され~」(水戸黄門)状態を味わい、凹んだ。
しかし、如何せん、月初である。忙しいのが幸いし、然程落ち込まないで済んだ。
ソラナックスを飲みながら「泣くのが嫌ならさあ歩け」と自らを励ます。
残りの鬱憤は次回女子会でスパークリングワインを飲みながらダイナミックに発散する予定。
スパーキング!!


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