Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

体内被曝をおそれて「精神的に苦しくなることを避ける」のが正当なら

2016-10-27 | Weblog
ドキュメンタリー映画「大地を受け継ぐ」のDVDが発売されたという。
この映画は、福島県須賀川市に江戸時代から続く農家の八代目当主、樽川和也さんが主人公だった。原発災害で多大な被害を被り、樽川さんの父・久志さんは、震災後の3月24日、キャベツ畑の端で首をつった。遺書はなかった。前日、農協から放射能汚染のため農作物出荷停止の連絡があり、父は息子に「お前に農業を勧めたのは間違いだったかもしれない」と話したという。
樽川さんは農家として先祖伝来の土地を守りつづける。出荷も再開した。しかし、「作物はすべて検査しているので安全です。でも生産者の私でさえも汚染された畑の作物は食べたくない」と言う。
良心のある農家が、しかし、自分が食べたくないものを生産し、販売する。その矛盾をどう考えればいいのか、ずっと宿題のように思っていた。ともかく、「生産者が自分では食べたくないと考える食材」が流通している現実は、ある。

内部被曝、子供たちの甲状腺がんのおそれについては、原発事故直後から、各方面より指摘されている。
原発事故後に福島県が設置した県民健康調査検討委員会の委員で、甲状腺の内視鏡手術の第一人者の医師でもある「子供の甲状腺検査を評価する部会」の清水一雄部会長(日本甲状腺外科学会前理事長)が、検討委に辞表を提出していた。清水氏は検討委が3月にまとめた「放射線の影響とは考えにくい」との中間報告に疑問を感じ、「部会長の立場では自分の意見が言えない」「多発は事実であり、これまでの臨床経験から考えると不自然な点もある。『放射線の影響とは考えにくい』とは言い切れない」としている。
原発事故当時に18歳以下だった福島県の子供たち約38万人を対象にした検討委の甲状腺検査では、これまでに174人が甲状腺がんまたはその疑いと診断されている。
子供たちの甲状腺がんのおそれについては、原発事故起因の放射線の影響と考えられる可能性がある、ということだ。

その中で、食材による内部被曝がどのくらい原因になっているかは、はかりようがない。

「食べて応援」という言葉には賛否両論がつきまとう。当然だと思う。
泉谷しげる氏らが写真に登場する「食べて応援」の電車内吊り広告を見たときには、かなり驚いた。
応援のために福島産の食材だけを使うと公言するレストランチェーンも現れた。
逆に、事細かに産地を表記する店舗、食堂も数多く存在する。だが結局、じっさいには確かめようがないはずだという意見もある。
既製品は表示に限界がある。表示のないものを口に入れる機会がまったくない生活を送れる人は、そんなに多くはないだろう。

震災直後に原発から遠く離れた土地に引っ越した人がいる。そういう中で、弁当を注文するときでさえ、産地を事細かく検証する人も知っている。生活を一変させねばならないほどの決意をして移住した人にとっては、ただ住居を移動しただけではなく、食品による内部被曝をとことん避けるというのは、一貫して当然のことなのだろう。とくに子供がいる人はそうしたいはずだ。
周りの人たちがあまり気にしていなくてもこだわり続けることには、困難が伴うだろう。あるいはその人のことを「自分さえ良ければいいのか」とネガティブに捉える向きもあるかもしれない。
だが、こだわる自由はあっていいはずだ。
「被曝しないように食べ物に気をつける」ことが、内部被曝をおそれるだけでなく、その人にとって「精神的に苦しくなることを避ける」という意味もあるだろうからだ。
それぞれの人間にとってどういうことがストレスになるかを、周囲がジャッジすることはできない。

「国家が安全だと保証してはいるが生産者が自分では食べたくないと考える食材」が流通している現実。
それを食べる可能性を否定できない条件の中でしか生きることのできない人が、「精神的に苦しくなることを避ける」ことは、尊重しなければならない。
しかし逆に、だ。
誰かに向かって「そんなところに住んでいるなんてありえない」とか、善意の相手に対して「特定の産地の食材は送ってこないで」という意味に取られるような物言いは、決してあってはならないと思う。最近、幾つかの場所でその種の言葉に出会って、いたたまれない思いがした。
誰にとっても「精神的に苦しくなることを避ける」ことが正当なら、だ。

もちろんそれは、現在の、現実を知らせる仕組みの不全を厳しく指摘し、「国家が安全だと保証している」ことが曖昧にさまざまなことを許してしまう仕組みを、監視し、検証する体制を取る努力と、並行しなければならないだろう。
それができていないと感じる私たちもまた、内部から蝕まれてゆく。

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯

二日にわたってパソコンが不調。
再起動すればいいのだが、再起動するための整理と、それでも零れた書類の修復に時間がかかるし、取りこぼしが出ている。
ともあれ辛うじて修復、作業再開。
で、弾みを付けるように、ブログを、ということだが、ちょっと前に書いていたがアップしていなかった、しかし気になっていた原稿に、ほんの少し手を入れただけだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする