シライケイタ氏が作・演出する劇団〈温泉ドラゴン〉が新作で「本庄事件」を扱った芝居をやると聞いて、最初は、おお、と思ったが、それは、私も1923年の「本庄事件」に繋がる芝居をやったばかりだからである。『九月、東京の路上で』に出てくる「本庄事件」は、関東大震災に端を発した朝鮮人虐殺事件の一つである。私は同作で、本庄よりも近隣の寄居、熊谷の事件を描いた。
残念ながら観に行く時間がないのだが、そのシライ氏の新作『THE DARK CITY』は、たいへん好評のようである。ただ、こちらは、1948年、本庄市で、新聞と市民が連帯して町から暴力を一掃したほうの「本庄事件」を扱っているのだという。別な事件なのだ。
シライ氏はこの新作のために本庄市を歩いたという。じつは私も『九月、東京の路上で』のための取材で、本庄市を少しは歩いた。そのさい同市の歴史民俗資料館に行き(写真)、その「反暴力のほう」の「本庄事件」の展示も見た。……この時代、この背景である。取材時のことを思い出すと、私なら、こちらの「本庄事件」であれば、初めから事件に関わり全てを見守り采配していた可能性のある「GHQ」との関わりを描くことを中心に置いたのではないかと思う。拙作『天皇と接吻』と同じ時代背景だからだ。「反暴力のほう」の「本庄事件」のキーパーソンは、「GHQ」のヘイワード中佐である。シライ氏がどのようなアプローチをしたのかは知らない。
『九月、東京の路上で』の内容では、「街道沿いの街」という意味では、私は本庄の近くの寄居の方に惹かれた。『九月、東京の路上で』には、寄居という街の成り立ちに言及する場面は出てくる。本庄も寄居も、どこか過去の時代の臭いが残っている。
同時代の、自分より若い作家が熱意の籠もった作品をつくって評価を得ているらしいのだ。自分も頑張らねば、と思う。
ちなみに、『九月、東京の路上で』は、来年春に再演する予定である。