日本ペンクラブの企画、井上靖原作「補陀落渡海記」リーディング、台本・演出担当として、上演終了。
久しぶりの伊豆である。
中村敦夫さん、素晴らしかった。圧倒的な説得力。僧を演じる、この役のために、剃髪なさった。
燐光群・猪熊恒和も、高度なフレキシビリティーを要求される相手役を、しっかりと、豊かに、演じきった。
音響・島猛の、繊細と大胆。彼にしかできない世界である。
観客の皆さんの集中力も高く、上演を支え、ともに結末までを伴走してくれる、密度の濃いものだった。
いってみれば、61歳の主人公が、そこに至るまでの自らの思いと裏腹に、自ら死んでゆくことを余儀なくされる、という話である。
まるで自分の話ではないか、と、61歳の私は、思う。今のところまだ生きてはいるが。未来は誰にもわからないこの世界に存在しているが。
この物語が像を結んでゆく時空に立ち会えることが、居合わせた皆の喜びとなった、と思う。
ペンクラブとしても、手応えを感じてくれたたみたいで、ありがたいことである。
リーディングというより完全に朗読劇だが、予想を超える成果を挙げられたと思う。
この企画で中村敦夫さんとご一緒できた幸福は、うまく言い表せないが、本当に、嬉しい。私が勝手に、ものすごく励まされた、という事実もある。
極めて厳しい照準の中で、中村敦夫さんという俳優が、祝福される、劇になっていたと思う。
同時に、豊かで、しなやかで、これこそがユーモアだ、という人間のそうするしかない姿を、その場の人たちで共有できたと思う。この厳しい内容を、いっさいの予定調和でなく、段取り抜きに、ライブである形として、可能にできたのである。
この仕事を続けてきてよかった、と思う。
合間に、中村敦夫さんと、いろいろなお話をした。
「木枯らし紋次郎」のことばかりじゃないですよ。内田栄一さんのこと、俳優座関連の皆さんのこと、等々……。
「《ふるさとと文学2023》~異郷としての日本~」
原作 井上靖「補陀落渡海紀」
脚本・演出 坂手洋二
朗読出演 中村敦夫 猪熊恒和
開催 10月15日 13:00~ ふるさとと文学2023~異郷としての日本~
先着600名
会場 アクシスかつらぎ 大ホール
第一部は、吉岡忍さん脚本の、映像ライブステージ。
第二部が、私たち。
第三部は、楊逸(ヤン・イー)さん、グレゴリー・ケズナジャットさん、デビット・ゾペティさんら出演のシンポジウム「異郷としての日本」。
ペンクラブ会長の桐野夏生さんも、いらっしゃった。
日本ペンクラブでの、初仕事であった。
と思ったら、そうではなかった。
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