去年はろくに音楽も聴かないような生活をしていたが、ニューヨークで闘病生活を送っているEd Vassalloに勧められ、唯一つ繰り返し聴いていたのがアデル(Adele)の〝Someone like you〟だった。いろいろ煮詰まった時など心癒やされた。そのアデルが主要3部門を含む最多6部門でグラミー賞を受賞。〝Someone like you〟は最優秀ポップ・パフォーマンス(ソロ部門)に。なんだか不思議だ。レディー・ガガは無冠に終わったということだが、彼女がどのくらいの人気者なのか私はわかっていない。ソウルの金浦空港で彼女のそっくりさんらしき人が人々に囲まれていたのを見たが、まあ、ホンモノのはずはないし。授賞式で話題になったというホイットニー・ヒューストンのことはよく知らない。ご冥福をお祈りしたいが。だがじっさい、アデルのこともよく知らない。面目ない。……稽古場に竹林功、登場。そして矢内原美邦さん久々に。稽古中盤はムーブメント中心。なんだかんだ忙しく、持参した弁当(ご飯に野沢菜ちりめんを混ぜただけ、他におかずなし)に手をつける暇もない。……いったん幕が開けば、演出家もプランナーもいなくても本番そのものは進む。演劇は俳優のものである。私の口癖みたいなものである。俳優が感じていることに観客が立ち会ってくれるというのが、演劇というものの持っている仕組みだ。俳優が舞台を通した「いま」を生きてくれないとそれは果たせない。あと十日。どこまで迫れるか。……美邦どんが撮影した稽古場写真がアップされている。仕方ないので私もコピーさせていただく。だけどこれ以上外観ができてきたら、一応、非公開にしてもらわないとね。
難渋していたパンフレット原稿を仕上げ、自転車で稽古へ。五日市街道の曲がり方を間違え二十分のロス。頑張れば武蔵関まで片道四十分以内では着くだろう。帰りは寄り道買い物したから時間は不正確。……舞台セットの両側部分と客席の本体が出来上がっている。朝5時まで仕込んでいたという。優秀で真剣な劇団員スタッフの皆さんである。お疲れ様です。出来上がりつつある空間は尋常でない。仕掛けておいて言うのもなんだが、こんなセットは観たことがない。入場者はそうとうびっくりするはずであるが、まだ中身は教えられない。……福島第一原子力発電所2号機の圧力容器底部の温度が同日午後2時20分に約82度に上昇。冷却水を増やしたというが。政府が冷温停止などと言っていたのが本当に恥ずかしい。東電は「温度計不良」と説明。……米軍普天間飛行場を抱える沖縄県宜野湾市市長選。経済振興などを中心に訴えた新顔の前県議、佐喜真淳(自・公、新党改革推薦)が900票差で当選。元市長の伊波洋一(共産・社民・沖縄社大党推薦)が破れたことで、どのような影響が出るか。「普天間基地固定化の絶対阻止」「県内移設は困難」は二人とも共通しているから日米両政府がめざす名護市辺野古への移設が難しい状況は変わらないと思われているが。伊波氏敗北については、じっさい「なんでだ?」と東京の人達に聞かれる。うーん、宜野湾の人達の意向についてはどうにも説明のしようがない。主張がほぼ共通なら経済を視野に入れた候補がいい、という単純なことなのか。とにかく気の緩みは許されないことがわかった。より大きな勝利のための教訓とするしかない。……だが、なんといっても防衛施設局の選挙工作問題が露見した上でこの結果だから、まず今週からの高江ヘリパット基地建設阻止の攻防が気になる。……昨日伝えたJosh Foxは一日拘留で釈放されている。
燐光群『天皇と接吻』に出演したJosh Foxがワシントンでフラッキングの公聴会のさい撮影しようとして逮捕され、緊張が続いているという。詳細はまだよくわからないが、Joshは現在、監督したドキュメンタリー映画『GAS LAND』続編の編集作業に入っていた。地下ガス採取に伴う水質汚染を糾弾するこの映画は、リアン・明子のルームメイトで私も知っているデボラがプロデューサーを務めている。前作は評判を呼び、アカデミー賞候補にもなった。Joshは「演劇人」の枠を越えてジャーナリストとして活躍しはじめたところだった。Joshを応援し、表現の自由、市民の「知る権利」を守るため、米国憲法修正第一項権の保護をアンディー・ハリス下院議員に要求する三万人の署名運動が始まっている。下記サイトを拡散希望とのこと。
http://action.workingfamiliesparty.org/p/dia/action/public/?action_KEY=5377
http://action.workingfamiliesparty.org/p/dia/action/public/?action_KEY=5377
大友良英さんと『荷』の音楽方針を詰める。大友良英(ギター・ターンテーブル)、江藤直子(ピアノ)、佐藤芳明(アコーディオン)、高良久美子(マリンバ・パーカッション)、芳垣安洋(ドラムス・パーカッション)、Sachiko M(サインウェイブ)という豪華メンバー決定。……稽古後、韓国俳優二人と落ちついて話をする。通訳のイ・ホンイさんはすばらしく能力が高いので、こちらは調子に乗ってついつい翻訳しにくいはずの難しい話もしてしまう。申し訳ない。ある意味、演劇の現場の交流は万国共通との思いを新たに。
午前中は主に連絡事項で潰れる。韓国やアメリカとも。……稽古。早めに終わる、といっても七時は過ぎていたのだが。……誘われたので初めて「ロックの会」へ。倉本聰さんがいらしていたので驚く。鎌田實・鎌田慧のダブル鎌田氏と加藤登紀子さんの揃い踏みにも場内がざわざわしたままなので驚く。「ロックの会」は松田美由紀さん岩井俊二さんらが発起人、環境問題を考えるコミュニケーションの場ということ。壇上の人の話を聞かないわけではないが、交流は個人間交流が主眼ということのようだ。「ロック」というのは最近「Rock」という言い方が最近なにか意志を持って「いけている」ものの代名詞のように使われている流れかと思ったら、「6月9日」に発足したからだとか。田中優氏の話では「天城抗火石」で放射能が消えるという。消えるというか、「天城抗火石」は、放射能を赤外線に変えて安全にしてしまうそうで、それが本当ならとっくに世間の話題になっていていいはずだが、何か妨害があるのだろうか。「ナノ銀」の話も理屈はよくわからないのだが、本当だったら素晴らしい。誰か特許を取っていないのだろうか。しかし「未来の人間が『21世紀の人々が貴重なエネルギーを無駄に赤外線に変えてしまった』と言うのではないか」という意見も当然出てくるだろう。そういえば「Rock」は「石」の意味もあるが。
沖縄やんばる・高江にヘリパット建設反対のため行っていた演劇・音楽の仲間たちが早々に帰京するとのこと。防衛施設局は、選挙関与問題とアメリカの基地移転方針が変わったため様子を見ないと動けないだろうから、当分工事の強行はないだろうという判断。平和でいいみたいだが、現地は事態を少しも甘くは考えてはいないはずだ。吉良知彦さんは高江のイシハラ君と那覇でライブをしたみたい。関東で四写真展同時開催中の石川真生さんが、辺野古キャンプ・シュワヴ浜辺のフェンス前で円城寺あやさんの反基地パフォーマンスを撮影。直後に電話あり。「さすが俳優は表情が豊かだわね」。久しぶりに聞いた真生さんの声。……自転車置き場に駐車料金を徴収する係員がおらず待たされ駅に着くと電車も出たばかりで忙しい時に限って面倒な時間のロス。まったく迷惑。自転車駐輪場は昔のように安い値段での年間登録制にしてほしい。……午前に仕上げた最終編集をすませた台本が皆の手に。稽古は前半に戻る。燐光群の鈴木と横山が見学に来る。今回の芝居はかなり変わったことをしているわけだが、こちら当事者はあまりそのことを意識している余裕はない。……稽古後に詰めの美術打合せ。松下舞監が新たな備品を持ち出してくる。入江さんの豊富な知識には毎回唸らされる。なんにしてもいろいろ決まる。上演会場で稽古をしているからこその具体的かつ合理的な相談。……沖縄から野菜届く。小松菜とほうれん草をいただく。うまい。
いろいろ注意報が出る不穏な天候の朝。稽古は後半を当たる。なんとかラストまでの流れをつかみたい。十時前に稽古が終わってもいろいろ打合せをしているとすぐに十一時くらいにはなってしまう。武蔵関界隈徒歩十分圏内に住んでいる方々が多いので、バス組は油断してはいけないのである。……沖縄そばからセシウム検出。汚染薪の流入が原因らしい。朝に沖縄そばを食べたばかりだ。うーむ。
どんなに冷たいといっても雪にならないのだからましだろうと思う。パソコン作業が終わらず。正午から稽古、夜は衣裳と美術の打合せ。十時も回ってから加藤ちかの強い要望で西原梨恵さんと三人で武蔵関の居酒屋Mへ。
最近唯一観た映画はケベックの『灼熱の魂』(監督・脚本/ドゥニ・ヴィルヌーヴ)だが、原作はレバノン出身のワジディ・ムアワッドの戯曲である。彼の『約束の血』四部作の第二部にあたる。完結編の第四部の『CIELS』は『屋根裏』に似ていると言われたのでパリ・オデオン座のスタジオで見たが、小さい小部屋を複数出すところが共通点(?)だったか。全方位を演技エリアにするという点で〈地下空港〉の昨年末の作品は少し似ていた。『灼熱の魂』も『CIELS』も社会的な素材ということになるのだろうが、メロドラマというか血縁に関わる因果話であることは共通している。いささか作り過ぎと思わざるを得ない面もある『灼熱の魂』だが、ファーストシーンの少年が何者であったかがわかるとき、一種の「普遍」というべき視点を獲得していることがわかる。映画としてよくできている。
なんだかんだやることが多く、早めに稽古場に行くつもりが果たせず、ぎりぎり。稽古は休憩がはさまるものの、ほぼノンストップで八時半まで。全体を見通して何が必要かをかためたいのと美術の技術的視点をはっきりさせるためでもある。ふだんから七時過ぎくらいまでなら食事休憩なしでいいと思っているものの、ついつい超過してしまう。まあこの劇団は休むことに積極的ではなく、ほっておくと稽古休みの日さえなくて構わないという人達ばかりなのである。終えて打合せ。その後、韓国俳優たちの提案で俳優陣たちが飲んでいる居酒屋に、合流。韓国俳優たちとあまり話せなかったのは残念だが、けっこういい時間なので、さっと帰る。……もともと稽古を見学する方が多いのだが、午前中〈東京演劇アンサンブル〉は五十人近い劇団総会があったとかで、そのまま残ってということなのか、見学者がふだんより多い。帰宅してみると同劇団の俳優で台本・演出もする公家義徳さんがフェイスブックで「今日劇団総会があった。『荷』の稽古場は非常にエキサイティングだとのこと。演出の坂手さんはひとを大切にし、演劇が好きで、演劇の可能性を信じている、だから稽古がおもしろい!と次から次に報告があった。」とのこと。考えてみれば公演直接スタッフ以外では公家さんが一番稽古場に顔を出しているような気がする。
駅の立ち食いそば屋でカレーセットの昼食、多めかと思ったが、終バスまでぶっ通しで稽古と打合せだったので、エネルギー温存できてかえって良かった。舞台美術プランについてはようやく全体が見渡せる。客席も改造方針。ある「実験」も行う。……ところで、西武新宿線の車内に「座席のシート切りは犯罪です!」という表示がある。「座席のシート切り」のイメージはいまいち鮮明ではないが、そうか、そんなことする人がいるのかとも思うし、「なるほど、ナイフでシートを切ったら気分がすっきりするだろうなあ」と思って新たに犯行に及ぶ人がいるのではないかと、勝手に心配もしてしまう。やってはいけないと言われるとやりたくなるというのは、よくあることだ。……それにしても「今日がこの冬で一番寒い」と言った日が今年は既に何日もある。「極寒」が何度も更新されているということか。
午前中かけても諸々の課題は消化できず。自主的缶詰をすべきか。午後からの稽古もあっという間に時間が過ぎる。……前川知大君、読売文学賞受賞。めでたい。この賞は戯曲・シナリオ部門が撤廃されるという噂がまことしやかに流されていたが、結局今回は小説部門が該当作なしで、戯曲部門が存在感を見せつけたことになる。……日本全国が雪の脅威に怯えている。想定外の降雪で除雪予算を使い切ってしまった自治体、二重窓も風呂の追い炊き機能もない被災地仮設住宅の人達、なんともせつない。……リアンと明子の「VIEWPOINTS」ワークショップの開催告知。燐光群公演に出たことのあるフィリピン・PETAの俳優ボン・カブレラ君もNYで受講していたことが判明。2月18・19日の今回の講座は、本来は二~三週間はかかる内容の、入門編ともいえる内容。〈SITI Companyのリアン・イングルスルード氏と相澤明子氏をニューヨークから招き、現代アメリカ演劇の最新潮流として、多くの作品づくりに用いられている「VIEWPOINTS」の一般向け体験ワークショップを開催いたします。http://rinkogun.com/index_files/viewpoints%20WS%20チラシ申込書付1.pdf〉
ウ・ミファ、チョン・スンギル、通訳のイ・ホンイさん、稽古に参加。スタッフも続々。夜は別部屋で手作り鍋による韓国勢の歓迎会だが、衣裳と美術の打合せも夜遅くまで並行。一応全て終えてトマト鍋をいただきほっとすると、もう深夜バスしかない時間帯であった。
2月の宜野湾市長選に向け、沖縄防衛局内で宜野湾市で選挙権を持つ職員やその親族がいるかリスト作りを指示するメールが出ていた。午前中の衆院予算委員会で、赤嶺議員がその事実を追及。リストアップされた職員に局長が次なる指示をした日程まで含めて露呈している。沖縄防衛局は「メールがあったことは事実」と認め、田中防衛大臣はのらくら逃れようとしているが、この無能の人のクビは確実に飛ぶだろう。宜野湾市長選はほっといても伊波洋一元市長が勝つだろうとは思うが。……こんな状態では沖縄防衛局は当分高江では動けないだろうが、米経済誌「フォーブス」に「沖縄を沖縄県民に返せ」という論説、米政府幹部向け専門紙「フェデラル・タイムズ」で元国防副次官デュボア氏らの「普天間の閉鎖と沖縄における海兵隊全体の見直し・グアム移転計画縮小」という提言が出ている今、日米関係が「県内移設見直し」に傾く可能性は高い。そして、むしろそうした「外圧」が、「普天間固定」をも含めて見直せと言っているのだ。……それにしても学級会議レベルのくだらない国会をラジオで聞いて憤慨しつつ雑務をこなしている間に、昼に。慌てて出かける。稽古、部分的に試しで作った客席位置確認も。そろそろ俳優への要求が増えてくる時期。夕方のメール、アメリカから朗報。夜、韓国からウ・ミファ、チョン・スンギル到着。初めてご一緒する通訳のイ・ホンイさんも。ふだんはバスなので通らないし裏口しか使ってこなかった武蔵関駅の表側を初めて見る。けっこう栄えていたのだな。