大学四年の時、学生時代の唯一の海外旅行にヨーロッパに行った。
本来、山に登りに行くはずだったが、とある事情で予定を変更し、一人でヒッチハイク(オート・ストッピング)をしてあちこちを廻った。
スイスから南仏を経て、ストラスブールのカンボジア人のお宅に居候になり、そこからナンシーに旅立った。
ナンシーはアールヌーヴォー(ユーゲント・シュティール)のガラス器作家のエミール・ギャレの生誕の地で、調べてみると作品の博物館などがあるのだが、その当時はそんな知識もなく、ただロココ調の街を見て回っただけである。
エミール・ギャレは単に工芸家という範疇に留まらず、象徴的なシュールレアリズムに繋がる作品を多く生み出した。
彼の作品の、女性器をシンボライズしたという花瓶などを写真で見ていると、ルドンやキリコなどに通ずる神秘的で超越的な感性を感じ取ることができる。
ギャレの作品は一度だけ上野の近代博物館の特別展で直に観たことがある。
さすがに実物の迫力は写真で見るものとは雲泥の差がある。
フュッスリ、フリードリッヒらから続く象徴主義美術の作家の中でもギャレは最も高く評価されてよい作家だと思う。
その作風の影響は現代美術、工芸にも大きな影響を与えている。
黒砂の山の奥より五月闇 素閑
染み入りぬ座敷に独り五月闇 素閑
夕にまたくしけずりたり五月闇 素閑
五月闇なかなか開かぬ古障子 素閑
月待てど木戸をさぐりて五月闇 素閑
赤坂の五月の闇の客迎え 素閑
新内の五月の闇の稽古かな 素閑
五月闇薄手の磁器の珈琲椀 素閑
五月闇瞑目窓辺ジンライム 素閑
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