ひと月前のこと。バレンタインデーに備えて、夫へのチョコを探しにデパートの特設会場まで行ってきた。
たったの4粒で3000円を超えるような高級品はもったいない。ピンとくるものに出会えず、ここで買うのはあきらめた。しかし、せっかく来たのだから、ソフトクリームくらい食べてもよかろう。
「よし、生協にしよう」
生協でもバレンタインデーに合わせて、ロイズや六花亭などの商品を取り扱っている。リーズナブルで美味しいから、こちらのほうが喜ぶかもしれない。
ズバリ、今年は「質より量」作戦である。
そのまま、2月14日を迎えたわけだ。
「はい、パパ、チョコレートだよ」
「わあい」
世の男性は、多少なりとも、バレンタインデーを意識するようにできているらしい。たとえ、誰がどう見ても義理チョコにしか見えないものでも、もらえれば嬉しいようだし、もらえないと敗北感に打ちのめされるのだとか。なんとも気の毒である。私は男に生まれなくてよかった。
「どれ、開けてみよう」
尻尾をフリフリ、夫が包装紙を剥がしていく。散歩に出かける前の犬のように、動きが弾んでいる。
「あ、ロイスだ」
「ロイスじゃなくて、ロイズ」
「そうそう、ロイズ」
何度言っても、夫はROYCE'をロイスと読む。恥ずかしいヤツだ。
「こっちは、ろっかていか」
よーし、六花亭。漢字の読み書きは、加齢とともに苦手になったが、食べ物に関連していればおぼえているらしい。
「全部で4つもあった」
「あれ? 5つじゃなかった?」
数が数えられなくなったのかと焦ったら、一番小さな箱が隅に追いやられていた。こちらも六花亭の商品で、「大地」というセミスィートの生チョコである。
「5つだった」
「でしょ」
「いただきまーす」
食べるのは家族全員で。夫を差し置いて、誰よりも早く「シュッ」とチョコマロンに手を伸ばす。食べたことがなかったから、どんな味なのか興味があったのだ。しかし、包みをひっくり返して仰天した。
「あ、これ、賞味期限が明後日だぁ」
「えー」
日持ちのしない菓子とわかっていたら、14日まで待たず、届いた日に開けたのになぁ……。確認もせず失敗した。
「じゃあ、残りはしまっておこう」
夫がいそいそとフタを閉め、箱を片づけている。エサをもらった犬のように、幸せそうな顔をしていた。
そういえば、職場でも同じ表情をしていたオジさんがいたことを思い出す。今日は、男女を問わず、同じ部の同僚にコインチョコを配った。還暦を過ぎた大ベテランの男性は、遅れて出勤するとのことだったので、机の上に置いておいた。すると、あとから、わざわざ私の席までお礼を言いに来てくれた。
「笹木さん、たいそうなものをいただいたようで、ありがとうございました」
深々と頭を下げられると、安物の義理チョコなんぞで申し訳ない気持ちになる。でも、「いいことしたのかな」という達成感もあり、こちらの頬も緩む。
あら、ワタシ、季節外れのサンタクロースになった気分だわ。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
たったの4粒で3000円を超えるような高級品はもったいない。ピンとくるものに出会えず、ここで買うのはあきらめた。しかし、せっかく来たのだから、ソフトクリームくらい食べてもよかろう。
「よし、生協にしよう」
生協でもバレンタインデーに合わせて、ロイズや六花亭などの商品を取り扱っている。リーズナブルで美味しいから、こちらのほうが喜ぶかもしれない。
ズバリ、今年は「質より量」作戦である。
そのまま、2月14日を迎えたわけだ。
「はい、パパ、チョコレートだよ」
「わあい」
世の男性は、多少なりとも、バレンタインデーを意識するようにできているらしい。たとえ、誰がどう見ても義理チョコにしか見えないものでも、もらえれば嬉しいようだし、もらえないと敗北感に打ちのめされるのだとか。なんとも気の毒である。私は男に生まれなくてよかった。
「どれ、開けてみよう」
尻尾をフリフリ、夫が包装紙を剥がしていく。散歩に出かける前の犬のように、動きが弾んでいる。
「あ、ロイスだ」
「ロイスじゃなくて、ロイズ」
「そうそう、ロイズ」
何度言っても、夫はROYCE'をロイスと読む。恥ずかしいヤツだ。
「こっちは、ろっかていか」
よーし、六花亭。漢字の読み書きは、加齢とともに苦手になったが、食べ物に関連していればおぼえているらしい。
「全部で4つもあった」
「あれ? 5つじゃなかった?」
数が数えられなくなったのかと焦ったら、一番小さな箱が隅に追いやられていた。こちらも六花亭の商品で、「大地」というセミスィートの生チョコである。
「5つだった」
「でしょ」
「いただきまーす」
食べるのは家族全員で。夫を差し置いて、誰よりも早く「シュッ」とチョコマロンに手を伸ばす。食べたことがなかったから、どんな味なのか興味があったのだ。しかし、包みをひっくり返して仰天した。
「あ、これ、賞味期限が明後日だぁ」
「えー」
日持ちのしない菓子とわかっていたら、14日まで待たず、届いた日に開けたのになぁ……。確認もせず失敗した。
「じゃあ、残りはしまっておこう」
夫がいそいそとフタを閉め、箱を片づけている。エサをもらった犬のように、幸せそうな顔をしていた。
そういえば、職場でも同じ表情をしていたオジさんがいたことを思い出す。今日は、男女を問わず、同じ部の同僚にコインチョコを配った。還暦を過ぎた大ベテランの男性は、遅れて出勤するとのことだったので、机の上に置いておいた。すると、あとから、わざわざ私の席までお礼を言いに来てくれた。
「笹木さん、たいそうなものをいただいたようで、ありがとうございました」
深々と頭を下げられると、安物の義理チョコなんぞで申し訳ない気持ちになる。でも、「いいことしたのかな」という達成感もあり、こちらの頬も緩む。
あら、ワタシ、季節外れのサンタクロースになった気分だわ。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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