これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

竪穴式住居に負けるな、昭和式!

2024年11月24日 21時24分01秒 | エッセイ
 先日、埼玉県の日高市まで出かけてきた。
 高麗という地名をご存じだろうか。日本史で学んだ高句麗が名前の由来というが、「こうらい」ではなく「こま」と読む。近くには水の澄んだ高麗川が流れ、緑に囲まれた田園風景が続いていた。池袋から特急を使わなくても1時間ほどなので、コンクリートジャングルに疲れ、ちょっとリフレッシュしたいときにはおススメしたい場所だ。



 見どころスポットはいくつもあるが、私は駅から数分の場所にある「高麗村石器時代住居跡」を推したい。



 ここでは、昭和4年に縄文時代中期のヒョウタン形をした住居が発掘されたそうだ。



 1号炉のある北側が作業場で、2号炉のある南側を生活の場としていたと、掲示板に書かれていた。2号炉の周辺には、さらに2カ所の炉跡があり、3回ほど住居を立て直したことが確認できたという。
 埼玉県では初めて、全国でも7例目の竪穴式住居の発見となり、当時の話題性が伺えた。
 現在では、この住居跡は建てられた時期が異なる2軒の住居の一部が重複して、ヒョウタン形になったと考えられているようだ。それぞれの住居は径6mの円形というから、大豪邸ではないとしても、家族が身を寄せ合って睦まじく暮らしていたと察した。



「いいなあ、娯楽がなくても楽しそう」
 大昔の遺跡に惹かれる理由は、DNAに刻まれた過去に戻ろうとするからなのだろうか。
 ほのぼのとして、足取り軽く帰りの電車に乗った。

 ところで、今の若者は「昭和」に萌える年代なのだそうな。
「明日はね、昭和を再現したカフェに行ってくるから。楽しみ!」
 20代の娘と話をしていたら、弾んだ声でそんなことを言っていた。口コミで聞いてはいたけれど、どうにもピンとこない。
 昭和? 昭和ねぇ……。
 そのカフェの写真を見ると、畳の上のちゃぶ台や、壁の色、緑色のクリームソーダなどに子ども時代を思い出した。壁にはキラキラした素材が含まれていて、何でできているのかと不思議に感じたものだ。
「どう? この画像、いいと思わない?」
「うーん。小さいころからさんざん見たし。この頃は貧しかったから、わくわくすることもないね」
「そんなもん?」
「そりゃ、江戸時代の家屋だったら、いいと思うけど」
 短い会話のあとは、もやもやとした気分になった。私が江戸時代や縄文時代に興味を持つように、平成や令和生まれの若者が、昭和時代に関心を寄せているということなのだろう。竪穴式住居ならぬ、昭和式住居が人気ってわけか。
「……そんな年齢なのかな」
 理屈でも感覚でも拒否したい気持ちになる反面、努力すれば夢が叶った戦後の昭和に生まれ育ったことは、恵まれていたという気もする。
「楽しかった。これ、写真だよ」









 ああ、たしかに昭和だ。
 あと30年もしたら「砂希ばあちゃん、昭和の頃の話をして」などと頼まれることになるのだろうか。
 ますます、もやもやしてきた。

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大人だってオマケが好き!

2024年11月17日 15時47分42秒 | エッセイ
 職員の上村さんはお煎餅が好き。
 机に何種類もの袋を詰め込んで、昼食代わりに「バリバリ」と食べている。体に悪いところはないようで、アラカンというお年頃でもすこぶる元気なオジサマだ。
 ソフトサラダ、歌舞伎揚げ、ばかうけを食べる場面はよく見るが、その日は新潟仕込みを手にしていた。



「あれっ」
 上村さんの怪訝そうな声が聞こえてきた。
「1袋2枚入りのはずなのに、この袋は3枚入っているよ」
 すかさず、隣の職員が反応する。
「えー、見せて見せて」
「ほら」



「あー、ホントだ! ラッキーだね」
「うん。ちょっと嬉しい」
 小さくて薄手の煎餅が、ほんの1枚増えただけで、劇的にお腹が膨れるはずもない。でも、予期せぬオマケに出会うことで、自分の運のよさを感じ、打って変わって幸せな気分になるのだから不思議なものだ。特に家と職場の往復に明け暮れ、長年同じ仕事を繰り返している大人には、よい刺激になると思う。あまり感情を表さない上村さんが、その日はしばしば笑っていた。
 今日は私にも幸運が訪れた。午前中に出かけた埼玉県日高市のお寺で御朱印をお願いしたときのことだ。



 御朱印帳を受け取るときに、「よかったらどうぞ」とお菓子をいただいた。思いがけない幸運である。



「なぜ鎌倉?」という疑問はさておき、朝イチからお寺巡りをするため、せっかくの休みに5時半に起き、昼食の仕込みをしてから家を出たことを褒められたのかもしれない。仏様からねぎらわれたようで、とてもとても心が和んだ。
「うま~」
 さつまいもを原料にした口当たりのよい焼き菓子に舌鼓を打つ。
 次の土曜日も日曜日も仕事になってしまい、12連勤を不安に感じていたが、仏様からの差し入れて頑張れそうな気がしてきた。
 してもらって嬉しかったことは、誰かにしてあげるとさらによいだろう。
 3枚入りの煎餅はないけれど、美味しいお菓子ぐらいだったら常備できるかな。

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職場にスマホを忘れて帰った日

2024年11月10日 21時45分19秒 | エッセイ
 その日は多人数の保護者にメールを送る予定があり、添付ファイルに貼り付けたURLが正しく機能するかのチェックが必要だった。
「自分のスマホに送ってみよう。そこからサイトに飛べればオッケーだから」
 しかし、Outlookが不調で、スマホにメールが届かない。何どもやりなおして、ようやく正常に作動することが確認できた。窓を見ると外は暗く、すでに日没を迎えたことを知る。チャチャッとメールを送り、時計を見た。
「大変。もうこんな時間になっちゃった。急いで帰らなくては」
 机上の片づけもそこそこに、洗った弁当箱をリュックに入れて、コートを羽織るや否や職員室を飛び出した。今なら急行に間に合う。その一心で駅に向かった。
「よーし、乗れた乗れた」



 意中の電車の中で、スマホを取り出そうとした。ボスに翌朝の予定について連絡したかったからだ。財布やタオルの下に隠れているかと思ったけれど、それらしいものは見当たらない。
「うーむ。どうやら職場に忘れてきたみたいだ……」
 帰る直前までスマホを見ていたことを思い出す。きっと机の上に置きざりになっているのだろう。今さら取りに戻ることはあり得ない。どうせLINEは家族からしか届かないし、なければないで何とかなるはず。それ以上は考えずに読みかけの本を開いた。小林弘幸先生流に言えば、自律神経を乱さず平常心で過ごせる状態だったはずだ。
「ただいまぁ」
 帰宅してすぐにしたことは、古いスマホの充電であった。引退したスマホでも、Wi-Fiがあればある程度は活用できると知っている。どこまでできるか、試してみようではないか。



 機種変更して以来、2年間使っていないので、バッテリーがすっからかんになっている。しばらく経つと起動しWi-Fiにつながった。画面には「SIMカードを挿入してください」とのメッセージが出てくる。通話はできないだろうが、それ以外の機能が使えるかを確認しようと思った。
 まずはメールにアクセスする。「SIMカードなし」と表示しつつも送受信ができ、不要なダイレクトメールの削除も可能だ。PCアドレスにメールしてみたら、ちゃんと届くことに少々驚く。
 次にショートメールにチャレンジした。何しろ、ボスに連絡したかったので、これが一番気になっていた。過去のやり取りは機種変更前で止まっている。予想としては、できないのではないかと絶望的な気持ちでいた。
「できなかったら、夫のスマホをひったくって、使わせてもらえばいいや」と安易に考えないでもなかったが、ボスが混乱するといけない。勇気を出して「明日の連絡」として、おそるおそる送信したら、エラーメッセージは表示されなかった。「おやおや」と画面を見守っていると、5分後にはボスから「承知しました」の返信が表示される。ちゃんと届くことがわかり、結構びっくりする。
「なーんだ、古いスマホでできちゃうんだ。へー」
 夫のスマホを強奪せずに済んだことに安堵である。
 しかし、LINEはデバイスが変わったことで、本人確認が必要となるらしい。認証のためのショートメッセージが送られても、なぜか古いスマホには届かない。おそらく現在のデバイスでしか開けないのだろう。仕方なくLINEは諦めた。どういう仕組みになっているのか、ひたすら首を傾げるばかりだ。Xやインスタ、FacebookはPCでもできるようになっているので、何の不自由もなく「いいね」の確認ができた。ついでに乗換案内もサクサクと動き、翌日の電車をチェックした。
 寝る前にはアラームを設定する。スマホには、目覚まし時計という重要な役割を期待しており、私が寝坊しないで職場に行かれるかどうかがかかっていた。これも難なくクリア。ぐっすり眠った後は、ちゃんと4時53分に起こしてくれたので、朝の爽やかな空気を肺の中にたっぷり吸い込んで職場に向かうことができた。
 職場で、まずスマホを探す。
「あった、あった」
 予想通り、机の上に置きっぱなしになっていた。上にメモが載っていたので隠れてしまい、見落としたのであろう。画面を開くと、昨日チェックできなかった認証コードが届いていた。ついでに、ボスに送った「明日の連絡」も表示されていた。謎だったが「まあいいや」と流すことにする。
 こうして、意外と簡単に、スマホのなかったひと晩を乗り切ったわけだ。「いつ忘れても大丈夫」という妙な自信がついてきたが、友達が多い人は、同じようにはいかないだろう。
 しかし、娘には強く叱られた。
「何かあったら電話できないと困るんだよ! 絶対に忘れないで」
 まあ、そうですね……。
 調子に乗らないよう自戒しなくては。

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富士の高嶺にココアパウダー

2024年11月03日 17時19分16秒 | エッセイ
「そういえば、富士山5合目に行ったんだっけ」
 10日ほど続いたトラブルがようやく解決して、心の平穏を取り戻したとき、意外に楽しかったバスツアーのことを思い出した。
 職場きってのお祭り男である村井さんが、着任したばかりの外国人講師を楽しませたい一心で、「みんなで『富士山5合目とシャインマスカット食べ放題ツアー』に参加しよう」と声を掛けてくれたのだ。その日は祝日で、家でまったりしたかったけれど、親睦のためでは断りづらい。加えて、大好きな富士山にはしばらく行っておらず、渡りに舟という気もした。目標人数は20人ということもあり、一人でも多い方がよいのではと思って娘を誘い参加した。
「えっ、5人?」
「うん。ほとんどの人から断られちゃった」
 村井さんは苦笑いしていたが、落ち込んだ様子もない。雲一つない上々のお天気だし、都合のつく少人数で楽しめばよかろう。
「シャインマスカット楽しみ! あと富士山5合目には美味しいメロンパンがあるって、松井玲奈ちゃんが言ってたよ」
 娘は山に興味がない。でも、メロンパンとシャインマスカットには強く惹かれているらしく、母娘の利害関係も一致した。この時点で、バスツアーに高評価がつくことは明白である。
「じゃあ、皆さん、バスにお戻りいただく時刻は11:30です。お気をつけて」
 添乗員に送り出され、まずはメロンパンに急いだ。富士山は逃げないが、メロンパンは売り切れるかもしれない。この順番が正しいに違いない。
「あったあった」
 


 幸い、店には数人並んでいただけだ。5分待ち、ホカホカの焼き立てメロンパンにかぶりつくことができた。



 てっぺんの茶色の粉はココアパウダーだろうか。メロンの香りによくマッチしている。
「おいし~」
 夫は家に置いてきたので、みやげとして3個入りのテイクアウトも購入した。我ながら「まだ食べる気なの?」と呆れてしまったけれど。



 温かいコーヒーも飲み、腹ごしらえをしてから富士山に向かった。
 やはり逃げていなかった。



 5合目は圧倒的に外国人が多く、日本人は2~3割といったところか。わけのわからない言葉が飛び交っているが、どの人も笑顔で富士山をエンジョイしている雰囲気だった。
「いいじゃん、外国に来たと思えば」
 村井さんはあくまでもポジティブだ。遠くに見える湖は山中湖だと言っているが、本当だろうか。



 バスに戻り、昼食会場に向かう途中で、景色のよい場所を通った。



 絵になる一枚に感謝である。
 富士山の近くに住んでいる人が羨ましい。
 お昼はほうとう。富士山で冷えた体が温まり、午後の活動の準備をした。



 最後に、シャインマスカットの食べ放題でしめくくった。
「甘い房は黄色ですからね。黄色っぽい葡萄を探してください」
 農園の方のアドバイスに従い、なるべく黄色のシャインマスカットを探す。
「これなんかどう?」



「いいんじゃない」
「うん、甘い!」
 さすがに1房でお腹いっぱいになった。おみやげに購入することもできるので、夫にも買って帰ることにした。もちろん、私たちも横取りするけれど。
 帰りのバスでぐっすり眠る。
 職員プラス家族という変な組み合わせだったが、好きな場所で美味しいものをいただく企画は見逃せない。
 面倒くさがらずに、気になるところには足を運ばなくっちゃ。
 楽しいことがあれば、イヤな問題も乗り越えられるしね。

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