しましましっぽ

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「おそろし 三島屋変調百物語事始」 宮部みゆき

2008年11月01日 | 読書
「おそろし 三島屋変調百物語事始」 宮部みゆき   角川書店

17歳のおちかは、川崎宿で旅籠を営む実家で起きたある事件をきっかけに、他人に心を閉ざした。
いまは、江戸・神田三島町に叔父・伊兵衛が構える袋物屋「三島屋」に身を寄せ、黙々と働く日々を過ごしている。
ある日伊兵衛は、いつも碁敵を迎える「黒白の間」におちかを呼ぶと、そこへ訪ねてくる人たちから「変わり百物語」を聞くように言いつけて出かけてしまう。
そして彼らの不思議な話は、おちかの心を少しずつ、溶かし始めていく・・・。
おちかを襲った事件とは? 
連作長編時代小説。
<Web KADOKAWA 内容紹介より>

第一話「曼珠沙華」
藤吉の13歳年上の兄、吉蔵は優秀な建具職人だったが、藤吉が8歳の時、人を殺め島送りになる。
15年後、吉蔵が戻って来るという。藤吉は兄のことは奉公先に話していなかった。
それまでのそのことが原因で勤めがうまく行かなかったことが続いたからだった。
今の暮らしが壊れることを恐れ、藤吉は兄が戻って来なければいい、死んでしまえばいいとさえ望む。

第二話「凶宅」
錠前屋の辰二郎はある日、蔵の中の物を虫干ししている屋敷に声を掛け、木で出来た錠前の修理を請け負う。
昔の木の錠前を親方の清六に見せると、錠前は清六に噛み付く。錠前は生きていると言う清六はそれを預かる。
そして、清六を訪ねて来ていた娘の子どもが謎の高熱を発する。
清六は錠前が呪われていることを知るとそれを燃やしてしまう。
辰二郎は屋敷の番頭のその顛末を話すと、それでは別の頼みを聞いてくれという。
それは1年間家族で屋敷に住んで欲しいというもので、お礼に百両くれるという。
百両に引付けられた辰二郎は清六が止めるのも聞かずに移り住む。

第三話「邪恋」
おちかの物語。
川崎宿の旅籠“丸千”の娘だったおちか。
おちかがまだ6歳の時、松太郎という子が街道沿いの崖の木に引っ掛かっていたのを助けられて丸千で暮すようになる。
松太郎は兄の喜一とおちかの間くらいの年だった。
その松太郎がおちかの婚約者の良助を殺し、自らも助けられた崖に飛び込み命を絶ったという。

第四話「魔鏡」
仕立て屋「石倉屋」の長女お彩は3歳の頃咳の病に苦しんだことから、親元を離れ懇意にしていた呉服屋の親戚筋の大磯に預けられる。
そのお彩が17歳の時に帰って来る。
お彩の下にはひとつ下16歳の市太郎と11歳のお福がいた。
お彩はとても美しく、お彩と市太郎は姉弟でありなから恋に落ちる。

最終話「家鳴り」
おちかの兄、喜一が松太郎の幽霊を見て、その後自分が行く場所が分かったと消えたのを気にしておちかを訪ねてくる。
松太郎はおちかの所にはいなかった。



この百物語はシリーズとして続いていくと聞いているので、単発な物語かと思ったが違った。
それぞれ別の人物が語る物語だがリンクして最後にはひとつにまとまり、一応この「おそろし」としては完結している。
物語を聞くおちか自身が辛いことを経験して来たので、話を聞きながら気持ちが揺れ動くのが物語に深みを与えている気がする。
百物語ということからも、怪談めいた話しが多いが、怖いより悲しい気持ちになる。
人間の思いについて、怨念について、罪と罰について、気持ちの問題がたくさん出てくる。
どうすれば良かったかなどと言う事は、終わってから考えて出てくる答えもたくさんある。
何をしても後悔しないなどと言う事なんて、ないのではないだろうか。
そして、身内に不幸があると、みんな自分のせいだと思ってしまう。悲しいことだ。

人の思いが持ち物に乗り移ると言うのが宮部さんの時代ものにはよくある。
しかし今の世の中、物に乗り移るほど人と物の関係は強くない。
修理するより買い換えた方がいいと勧められるし、修理を頭に置いて物を作っていない。
なので、そういう話を読むと何となく今の時代もいいような気もするが、色々な物の魂は行き場がなくて困っていて、可哀想な気もする。妖怪とかもそうか。
昔と今と、当たり前だが、全く違うものになっているような気がする。



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