しましましっぽ

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「天国でまた会おう」  ピエール・ルメートル 

2016年06月15日 | 読書
「天国でまた会おう」  ピエール・ルメートル   早川書房    
 Au revoir la-haut   平岡敦・訳

1918年11月2日。
第一次世界大戦が終わる10日ほど前。
アルベール・マイヤールが所属するフランスの部隊はドイツの部隊と、百十三高地攻防で向かい合っていた。
しかし、休戦の噂が真実味を帯びる中、兵士の戦意は下がり、それはドイツも同じようだった。
アルベールは、プラデル中尉ら将校たちは、交渉を有利に進める為に出来るだけ多くの陣地を確保したいと思っている事は知っていた。
そんな時、ドルネー=プラデル中尉が偵察を命じ、2人の兵士が選ばれる。
誰もが『異常なし』の報告で終わると思っていた。
しかし、突然銃声が鳴り響き、2人の兵士は倒れる。
一瞬にして、砲撃が始まり、ドイツ軍も応戦して混戦となる。
アルベール達は突撃で前に進んで行く。
そして、偵察で撃たれた2人に兵士に気が付き近づく。
アルベールは、2人とも背中から撃たれた事を知り茫然とする。
その直後、アルベールはプラデル中尉に、砲弾で開いた深い穴に突き落とされ生き埋めにされる。
それを救ったのは、足を負傷して近くにいたエドゥアール・ペリクールだった。
しかしエドゥアールはその後下顎を失う大怪我をする。
終戦から1年。
アルベールはエドゥアールを看病しながら一緒に生活していた。
満足な仕事もなく、生活は苦しかった。
そんな中絵の才能があるエドゥアールが、ある事で金を稼ぐ方法を思いつく。










戦争で心と身体に大きな傷を負った2人の青年。
エドゥアールはアルベールの命の恩人だが。
その後の生活ではアルベールがいなければ生きてはいけない。
ただエドゥアールは、自分が生きていることを苦々しくも思っている。
育って来た環境も違うから、お互いの考え方もすんなり通じない。
そんな微妙な空気感が、その時代の様子とともに、とても丁寧に書かれている。
戦争の後の社会は、経験した事の違いなどで人間関係がいつも以上に敏感で難しい。
兵隊は国を守った英雄でもあるが、生きて帰って来たら生活するうえではライバルともなる。
そして、死者を蔑ろにする行為も。
何でも商売になるし、知らなければ、そのまままかり通ってしまう。

詐欺や策略も出て来るが、大きなどんでん返しや大袈裟な立ち回りもない。
どこかで、アルベールとプラデルの再会があるのかと思ったが、それもなかった。
それでも、この物語からは目が離せない。
やるせない気持ちと、無念な思いと。
戦争の悲惨な悲劇のひとつ、なのだ。
せめて、エドゥアールと父親のマルセルを会わせて語り合う時間が欲しかった。
お互いに少しは救われたのではないだろうか。


タイトルの「天国でまた会おう」は、ジャン・ブランシャールが最後に記した言葉から、だそうだ。
「あの空で待ち合わせだ。神がぼくらを結びつけてくれる。
妻よ、天国でまた会おう・・・・・・」
【1914年12月4日、敵前逃亡罪で銃殺される。
しかし後に、上官より撤退命令が出ていた事が分かり、名誉は回復された。】

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