「猿の証言」 北川歩実

「猿の証言」　　北川歩実　　　　　　　　文春文庫

チンパンジーはどれだけ人間の言葉が理解出来るのか。
言葉を話せないのは、発声器官の問題で、言語能力の問題ではない。
『緑清大学脳機能研究所』の井手元助教授は、チンパンジーとキーボードを使った図形文字を使い、コミュニケーションを取る研究をしていた。
そして、天才チンパンジー、カエデをテレビの科学番組で取り上げるために、収録が計画される。
しかし、その日カエデの機嫌が悪く、トラブルが発生して収録は失敗する。
井手元はその時、共同研究者でもある妻の真梨映に怪我をさせる。
井手元はその責任を取り大学を辞め、失踪する。
その時、チンパンジーのカエデとソラ、３ヶ月になる息子光輝と連れて行く。
井手元の行き先を突き止めた真梨映は、直ぐに光輝を取り戻しに行く。
しかし、麻酔銃で眠らされてしまい、井手元は再び姿を消す。
その場に戻って来たソラが、『井手元　死ぬ　カエデ　死ぬ』と図形文字で証言する。






科学を追及する上で起こるいくつかの問題が提起される。
新しく知らされることも多く、興味深い。
クジラやイルカの話しはよく聞くけれど。
サルとチンパンジーの違いなんて、考えたことはなかった。
サルはモンキーで、チンパンジーはエイプ。
類人猿だから、チンパンジーはひとり、ふたりと数える、と。
なるほど。
そのチンパンジーの証言を、どう捕らえるかの問題。
動物が文字や数字にかかわる問題を解くには、理解しているのか、芸なのか。
人間の反応を敏感に察知しているのか。
理論すれば、きりがない話題かも知れない。
そんな中で、最後に出てくる禁断の実験。
科学が発達して、遺伝子操作や人口受精、クローンが作られる。
人間はどこまで手を加えていいものか。
もしかしたら、物語の方が遅れていると言う懸念はあるかも。
そんな難しいことも考えてしまうが、物語として面白い。
ラストは、なんとも言えない気持ちにされられる。
人間は、やはり奢り過ぎている。