「テロリストのパラソル」 藤原伊織

新宿にある、バー「五兵衛」のバーテン島村圭介は、アル中で隠れるように生きていた。
そんな島村が天気の良い昼間、新宿中央公園で大規模な爆発事件に遭遇する。
島村はその前に偶然言葉をかわした一人の少女を気に掛け、爆発現場に行き、悲惨な状況を目にする。
多数の死傷者を出したその爆発は、テロの可能性も指摘された。
その夜、「五兵衛」に暴力団風の男がやってくる。
興和商事の浅井志郎と名乗る男は、爆破事件で島村の名前が警察で噂されていることを匂わす。
何故そんな事を知らせるのかえを聞くと、浅井は「五兵衛」で出す唯一のつまみのホットドッグを気に入ったからだと言う。
閉店の時、島村は複数の男に襲われ今日見た事は全部忘れるように警告される。
そして、自分に係わっていた人物が爆発に巻き込まれていたことを知る。



面白かった。
爆発事件やその後起こる事はハードで、暴力的なことが多いのだが、なんとなく爽やかな印象を受ける物語だった。
主人公がちょっとホンワカとした柔らかさを感じる人物で、好感が持てたこともあるだろう。アル中なのだけれど。
そして、ちょっと変わった暴力団の浅井志郎も同じで、登場人物がなんとなく爽やかで魅力的なのがいい。
会話も読んでいて楽しい。最初の島村と少女のやり取りも自然で、とてもいい感じだった。
タイトル通りテロリストも登場するが、さすがにテロリストは好きになれない。
このテロリストから受ける印象は、不気味さだった。思考回路が変。
しかし、この人物はテロリストというより、ただの殺人狂。政治的な背景はなく、個人的なことだけで人を簡単に殺してしまうのだから。


「五兵衛」はつまみとしてホットドックしか出さないバー。
それが凄く印象に残っている。「シリウスの道」にも登場したお店だが、今回の方がホットドッグを食べたくなった。