鬱蒼とした森の中で茂る木の枝を払いながら勾配を上がって行く。
森の匂いが満ちる空気の中に懐かしさがほんの少し感じられたので心がドクドクドクと音を立てた。
深い山間に村はあった。
懐かしい匂いとは人間の匂いだ。ひょっとして私はもう人間ではないのかも知れない。
村人は黙々と働いている。
右手の小さな家の庭先で舟を作っている男がいた。良く見るといくつもの舟が積み上げられていた。
一体山で舟を作るというのはどういうわけなのか? 不合理ではないか。
左の家の軒先では女が魚網を編んでいる。
よく見るといたるところに幾重にも蜘蛛の巣のように魚網がかかっている。女の指先は、それだけが生きているかのように休まず動き続けるので、シュルシュルシュルと指先から引き出しているかように網は紡がれてゆく。
海や湖などあるわけの無い山の中で舟と魚捕獲網が増え続けている様子はどうにもイライラする不合理だった。
それを問うために声をかけても手を振っても彼らには私が見えないのだ。
私はやはりもう人間ではないらしかった。
時間は無意味に回転しているだけなのだろう。そんな感じがしていた。

森の匂いが満ちる空気の中に懐かしさがほんの少し感じられたので心がドクドクドクと音を立てた。
深い山間に村はあった。
懐かしい匂いとは人間の匂いだ。ひょっとして私はもう人間ではないのかも知れない。
村人は黙々と働いている。
右手の小さな家の庭先で舟を作っている男がいた。良く見るといくつもの舟が積み上げられていた。
一体山で舟を作るというのはどういうわけなのか? 不合理ではないか。
左の家の軒先では女が魚網を編んでいる。
よく見るといたるところに幾重にも蜘蛛の巣のように魚網がかかっている。女の指先は、それだけが生きているかのように休まず動き続けるので、シュルシュルシュルと指先から引き出しているかように網は紡がれてゆく。
海や湖などあるわけの無い山の中で舟と魚捕獲網が増え続けている様子はどうにもイライラする不合理だった。
それを問うために声をかけても手を振っても彼らには私が見えないのだ。
私はやはりもう人間ではないらしかった。
時間は無意味に回転しているだけなのだろう。そんな感じがしていた。
