「生まれてすいません」。
という名言を残したのは、日本が誇る作家であり、かつ文壇最強の自虐ギャガー太宰治である。
太宰はそのあふれくる自己愛が逆流して、いたたまれなくなり、ついには自らの存在自体を謝罪してしまったが、私にも、そんな気持ちになってしまうことはある。
それは、コンビニで買い物するときのこと。
コンビニで買うものといえば様々であり、お弁当やお茶、カップ麺にお菓子、文房具なんかもたいがいそろっているが、そこで私が買うのが『週刊将棋』。
この『週刊将棋』は将棋専門新聞なので、もちろんのこと、中身は将棋だらけである。
世の中には、あまり聞かない業界誌なるものが多数存在し、こないだも書いたけど『月刊廃棄物』みたいな雑誌など、
「マニアックやなー」
つっこみのひとつも入れたくなるところであるが、『週刊将棋』も間違いなくその仲間だ。
さっとめくっても、
「王位戦一次予選、日浦、佐々木らが突破」
「今週の詰将棋」
「高校竜王戦速報」
「四コマ漫画 オレたち将棋ん族」
などなど、一般人にはなんのこっちゃな記事がズラリ。
これまで、買っている人を見たことがないという、超ピンポイント新聞なのだ。
そんな『週刊将棋』、一応駅のキオスクには置いてあるが、コンビニだとそのネームバリューのなさゆえに、なかなか売っていない。
なので、ほしいときには見つけるのに苦労するのだが、最近できた駅前のコンビニに置いてくれていることを発見。
ありがたい話で、毎水曜日もうでさせていただいている。
が、ここでネックになるのが、『週刊将棋』のマイナーさである。
普通、おにぎりやプリンなどを買うためにレジに持っていくと、すでに機械に商品が登録されており、バーコードをピッとやると、レジに商品名と値段が出る。
ところが、『週刊将棋』はその無名さゆえにか、なぜかレジの機械に登録されていない。
持っていくと店員さんが
「あれ? これバーコードないじゃん。どういうこと?」
多くの場合、困惑したような顔をするのだ。
これが、店長とか、ベテランのアルバイト店員なんかだとなれたもので、バーコードを使わず直接レジに打ちこんで精算してくれる。
けどだ、新米の若い子だと、そのやりかたを知らないようで、目をハテナにして困ってしまうのだ。
こういうとき、こちらも困るのである。
もちろん、私としてはだいたいの事情はわかっているので、落ち着いてやっていただければいいのだが、店員さんの方は軽くパニックである。
特にお昼休みの時間帯など、迅速さが求められるのに、そこで、勝手のわからない商品で冷や汗をかく。
なんだ、この聞いたこともないような新聞は。
てゆうか、これウチの商品か? 見たことないってば。バーコードも読み取らないし。
なんて、あわてふためき、
「申しわけございません、少々お待ちください」
平身低頭しながら、あれこれレジスターをいじくって事態を打開しようとする。
おそらくは高校生くらいのアルバイトさんであるが、機械はウンともスンともいわず、
「へ、そんな斜陽産業の業界紙なんぞ、知ったこっちゃないね」
とばかりに、沈黙を続ける。
このあたりで、もうこの光景になれっこになっている私はよほど、
「あのーバーコード通さずに、直接レジで打てばいいと思いますよ」
とか助言してあげようと思うけど、よけいなお世話かもしれないし、間違ってたら悪いし。
なにより私は人見知りなので、そんなふうに声をかけるなんてできるはずもない。
そのうち、後ろで並んでいるオジサンなんかが
「おい、早くしてくれるかな」
なんて急かして、女の子が半泣きになりながら
「もう少々お待ちください」
頭を下げているのを見せられると、嗚呼、もうお兄さんいたたまれなくて思わず
「ごめんよお、こんな誰も知らん新聞なんて買う客で。キミのせいじゃない。こっちがマイノリティーなんが罪なんです。そんな困らせるつもりはなかったんだよー」。
レジの前で胸が痛くなり、太宰治のごとく
「嗚呼、オレってなんてマイナー野郎なんだ、生まれてすいません」
心の中で、頭をかかえることとなる。
いかにマニアックな新聞とはいえ、ことあるごとに、こういうことが続くと私もつらい。
店員さんのスムーズな業務遂行と、私の恥辱プレイ回避のため、『週刊将棋』がバーコードの「ピ」ひとつで精算できるよう、日本将棋連盟には将棋の普及事業を、頑張ってほしいものである。