ソフトは囁く 先崎学vs南芳一 1999年 第58期B級1組順位戦

2024年12月20日 | 将棋・好手 妙手

 「え? ソフトにかけたら【先手必勝】ってどういうこと?」


 

 目が点になったのは、ある将棋の終盤戦検討していたときのことだった。

 昨今、将棋ソフトを使った研究は当たり前になっているが、私はそのへんに、あまりくわしくないほうである。

 ここで将棋の記事を書いているときも、ソフトの候補手などは、中身を理解できないし、パソコンのスペックもヘボいので、原則としては取り上げず、過去の雑誌の解説を参照することにしている。

 ただ、ひとつ例外なのが終盤戦で、最後の詰みの確認や、「これで受けなし」という局面が本当にそうなのかなどは、一応ソフトにかけることにしている。

 やはり「詰む詰まない」に関しては、ソフトは相当頼りになる存在で、長手順の詰みでも瞬時にはじき出してくれたりするから、これは本当にありがたい。

 しかも詰みや必至は結論が100%なので、議論になりがちな、人間とソフトの大局観の差など関係なく、取り上げやすいというのもある。
 
 もっとも、終盤戦は分岐が山ほどあって検討するのも「模範解答」つきでも大変
 
 これを人力でやるって、やっぱすごいよなあと、あらためて将棋の強い人へのリスペクトが高まったり。

 ということで、今日も今日とて難解な終盤戦をアレコレ掘っていたのだが、そこで手が止まることとなった。

 なにやら、評価値がおかしな数値をはじき出したからで、急遽取り上げてみたい。

 


 

 それは前回1999年、第58期B級1組順位戦、3回戦。

 南芳一九段と、先崎学七段の一戦。

 

 

 

 

 実戦はこの△85歩絶妙手で、後手の勝ちが決まったのだが、それがそうでもないと。

 ウチで使っているフリーの「GPS将棋」によると、この局面は1000くらい先手優勢

 「技匠2」では300くらい後手が優勢と分かれるのだが、△85歩▲68金と取って、△86歩としたところでは、ともに25003200で「先手勝勢」あるいは「先手勝ち」だというのだ。

 

 

 

 えー? どういうこと?

 2人プロ検討陣が、「先手に受けなし、後手必勝」と結論付けた局面で、なんとソフトは「先手必勝」。

 まったくの結果が出てしまった。

 詰みや必至の確認には問題ないから、フリーの古いソフト使ってるけど、そのせいなのかな?

 ホンマかいなというか、そんなもん現実に△86歩の局面は必至に見える。

 ▲同金△88金

 ▲77金△87金で、どちらも初心者でもわかる詰みで、しかもそれは、どうもがいても、さけられない運命なのだ。

 では、異議申し立てたソフト先生に、ここでどう指せばいいのかと問うならば、それが▲69飛と打つ手。

 

 

 なんじゃこりゃ。

 まあ、王手角取りなのはわかったけど、それを受けたときに、△87歩成があるから、▲79飛とは取れないではないか。

 どういうことでしょうと読み筋を拾っていくと、やがて「えー!」と声が出ることとなる。

 はー、なるほどー、たしかにそっかー。

 ひとりで納得していては、読んで方も「はよ続き言えや!」とイライラするでしょうから解説すると、▲69飛に後手は受ける手がないというのが、ソフト先生の読みなのだ。

 具体的には、王手を受けるのは合駒するか逃げるかだが、合駒なら後手は△39金しかない。

 そこで先手はを取るのではなく、▲77金と、ここでかわす。

 

 

 さすれば、を使わされた後手は△87金が打てず、攻めは頓挫すると。

 と、ここで私と同じく、

 

 「いやいや、それ△68角成▲同飛△87金でどっちにしろダメじゃん!」

 

 そう思われた方も多いだろうし、当時解説記事でもそう書いてあったが、△68角成の瞬間に▲19金と打つのが、きわどい返し技。

 

 

 

 △同と▲39飛△同玉▲19竜として、△29金▲49金と、この位置で「送りの手筋」を使う。

 △同玉▲29竜の「一間竜」から、△39金の合駒に▲58銀打とねじこんでいく。

 

 

 

 △同馬▲同銀△同玉▲67角と打って、△47玉▲49香から詰む。

 なので▲19金には△38玉と逃げるしかないけど、ならそこで▲68飛王手を取れるのだ!

 


 △47玉▲56銀詰み

 △48と▲28金から詰み

 △48金は、やはり△87金が消えるから、▲56角などからゆっくり攻めて勝ち。

 △58歩とか、その他の受けでも悠々▲88歩と受けられて、後手の攻めは完切れ

 つまりは、どうあがいても先手勝ちになる仕掛けなのだ!

 ふたたび「えー!」である。

 すごい手があるなあ。

 かといって、を温存して▲69飛△38玉と逃げても、▲49金△27玉▲39桂△同と▲19桂

 

 

 

 △36玉▲16竜△26金▲25銀△45玉▲56銀△44玉▲71馬(!)

 

 

 

 △53歩▲43成桂△同玉▲13竜△52玉▲53竜△41玉▲42香打まで、作ったようにピッタリ詰む

 

 

 

 最後に、あの働いていないように見えた、▲81が使えるというのだから、まるで江戸時代の古典詰将棋のよう。

 ラストも打ち歩詰めに見せかけて、作ったようにが一本残ってるとは、なんとも美しい手順ではないか。

 その他、変化はあるけど、どれもこれも、ちゃんと詰む

 すげぇや。まあ、完全に尻馬だけど。

 将棋には色々な可能性があるなーと感動してしまったが、たぶんこれだけでなく、過去名局と呼ばれるものも、さらに掘っていけば意外結末絶妙手が埋まっているものなんでしょう。

 ぜひ見てみたいので、だれか最高級のソフト使ってにしてくれないかしらん。

 

 


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