『ワン・ツー・スリー』はビリー・ワイルダーが贈る爆笑の東西冷戦コメディ

2018年03月11日 | 映画
 『ワン・ツー・スリー』を観る。

 主演はジェームズ・キャグニー、名匠ビリー・ワイルダーが監督、東西冷戦時のベルリンを舞台にした、古き時代のハリウッド名物「スクリューボール・コメディ」だ。

 主人公キャグニーは、コカコーラの西ベルリン支社長。

 やり手で出世欲バリバリの彼の望みは、ロンドンへの栄転であり、全ヨーロッパ支社長になること。

 そこに大きなチャンスが降ってくるのは、アメリカの重役からの依頼。娘がヨーロッパに遊びに行くので、その世話を頼まれたのだ。

 これはうまくやれば上の覚えもめでたく、出世はまちがいなしと、バカンスをキャンセルしてまで引き受けることとなったが、これがとんだ誤算。

 頭が軽くて惚れっぽい重役令嬢は、監視の目をくぐり抜け夜遊び三昧。それどころか、どこの馬の骨ともわからない男とデキてしまい、結婚してしまう!

 これだけでも一大事なのに、なんとその相手は東ベルリンのガッチガチの共産主義者。

 資本主義の先鋭のような会社の令嬢とアカの結婚! こんなことがバレたら、出世どころか首が吹っ飛ぶ!

 そこでキャグニーは策をこらして、東ドイツ警察に婚約者をスパイとして逮捕させる(!)が、やれ一安心とホッとしていると、なんと令嬢のお腹には彼の子供がすでに……。

 父親もいない子供を産ませるわけにはいかないと、一転キャグニーは東ベルリンに突入し、あれこれ手を打って、男を釈放させる。

 こうなったらもう仕方がない。二人は結婚させるしかない。

 となると、残された道はひとつ。コテコテの共産主義である彼を、あらゆる手を尽くしてコカコーラ社重役令嬢の婿にふさわしい、上流階級の若者に仕立て上げるのだ……。

 あらすじを聞いただけでも、いかにもといったお手本通りの喜劇。ジャームズ・キャグニーのマシンガンのようなセリフ回しが、なんとも芸達者で、そのテンポがとんでもなく心地よい。

 脚本家出身のワイルダーの書くセリフは、よほどよくできているのだろう。キャグニーが生き生きと、楽しんで演じているのがわかるのだ。

 アカとブルジョアのドタバタといえば、ワイルダーの師匠であるエルンスト・ルビッチが『ニノチカ』を撮っているが、おそらくはそれを意識しているのであろうというか、

 「共産主義者をいつのまにかオルグしてしまう」

 という設定は、男女が裏返っただけで同じ。

 というか、考えてみれば『ニノチカ』の脚本は、ワイルダーが書いたもの。当然、意識しないわけはあるまい。

 ルビッチはいかにもヨーロッパテイストな、粋な仕上がりを見せているけど(主演がグレタ・ガルボだし)、こっちはキャグニーを持ってきて、アメリカンにドタバタを演出している。

 今回観ていて引きつけられたのは、重役令嬢役のパメラ・ティフィン。

 『お熱いのがお好き』のマリリン・モンローのように、頭がゆるくてかわいい女というは、喜劇では定番の配役であるが、この映画でその役を割り振られているパメラが、ものすごいハマりようなのである。

 とにかく、飛行機を降りてくる最初の登場シーンからラストまで、一直線でずーっと頭がフワフワで、見事な「愛すべきバカ女」っぷり。

 もう、観ていてイライラするわ、それでいて笑えるわ、愛嬌はあるわ、とにかく憎めいないというか。

 主人公はジェームズ・キャグニーなんだけど、ストーリーの核は間違いなくこの姉ちゃん。おいしい役なのだ。

 知らなかったんだけど、このパメラ・ティフィンは青春スターとしてむこうでは人気だったらしい。

 そういう姉ちゃんを、こういった尻の軽いじゃじゃ馬役で起用するというのは、監督の遊び心であり、パメラの演技も一種のセルフパロディなのだろう、それゆえにハマり役のようなのだ。

 普通、そういうのって嫌がる人もいると思うのだが(モノマネ芸人を嫌がる大御所みたいなもんで)、キャグニーと同じくらい、楽しんでやってるのが伝わってくる。


 「一番情熱的なのは革命家よ。4回も婚約してるから、男にはくわしいの」

 「(ヨーロッパが赤化して)裁判になったら、あなたを弁護してあげるわね」

 「モスクワには『ヴォーグ』とファッション誌を送ってね」



 なんて、彼女のトンチンカンなセリフを書き写してるだけでも、「このオツム空っぽの尻軽女が!」と苦々しくも楽しい。

 こういった、演者がノリノリな作品というのは、そのやり取りだけで楽しいというか、いわゆる「ずっと観ていられる」系の仕上がりになるわけで、ひたすらに楽しく笑えて、ヒロインもステキな『ワン・ツー・スリー』はとってもオススメです。
 



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