鋼鉄の騎士 森内俊之vs羽生善治 1989年 第8回早指し新鋭戦決勝

2020年07月20日 | 将棋・好手 妙手

 前回(→こちら)の続き。

 これまで、将棋界のあらゆる栄冠を獲得した羽生善治九段の、めずらしく撃ちもらした棋戦に「早指し新鋭戦」がある。

 1988年決勝では、まさかの大ポカで中押し負けを食らったが、リベンジに燃える羽生は翌年もまた、決勝までかけあがる。

 相手はふたたび、森内俊之四段

 戦型は後手になった羽生が、横歩取り△33桂戦法

 そこから、相振り飛車のような力戦に。

 森内が手厚い陣形を築いてから攻めかかり、ペースを握っているように見える。

 

 

 図は森内が▲43銀と打ったところ。

 △24飛▲33角成

 △35飛には▲46金と取って、飛車をいじめていけば、先手先手で押さえこみが決まり、自然に勝てそうな流れ。

 後手の指す手が、むずかしそうな局面だが、ここで鋭い手が飛んでくる。

 

 

 

 

 △36桂と打つのが、若き日の羽生が見せた切れ味

 ▲34銀成▲46金なら、△48桂成と取って、玉を薄くしてから食いつこうという実戦的なねらいだ。

 それでも先手がやれそうだが、装甲の一番固い部分をはがされたうえに、▲28になっているのも気になる。

 後手から、△93桂とか△64角とか、△55銀△76銀など、イヤミな手はたくさんあって、なにやかやと、嫌がらせをされそう。

 秒読みで、これは怖すぎるということで、森内は▲36同歩と取るが、羽生も△同飛と王手して▲37歩の合駒にも、かまわず△同銀成と特攻。

 ▲同銀に、△56飛十字飛車を取り返す。

 いじめられていた飛車を、あざやかにさばいて、羽生がうまくやったかに見えたが、なんとこれが悪手だというのだから驚きだ。

 ▲65銀と打つのが、攻防にピッタリの手で、やはり先手がやれる形。

 

 

 これで飛車詰んでいるうえに、先手は▲28になっていたを手順に活用できたのが大きいのだ。

 桂打ちでは、ともかくも△35飛と浮くしかなかった。

 ▲46金には、△65飛でまだ長い戦いだったのだ。

 以下羽生も、またもや飛車取りにかまわず、△36歩とたたいて勝負、勝負とせまるが、最後は森内が一手勝ちを果たす。

 羽生の勝負手も切れ味鋭かったが、森内の落ち着きが、それに勝った形。

 まさに、のちに名人戦で羽生を苦しめることとなる、腰の重さの萌芽を見るような内容だ。 

 こうして羽生は、またしても決勝の舞台で、森内に敗れた

 その後の羽生の実績を考えれば、この大会で優勝できなくても、その棋歴にかすりともキズがつくことはない。

 ただ、最大のライバルに大舞台で「往復ビンタ」を食らったのだから、若手棋戦とはいえ、こちらの想像以上に、悔しさもひとしおだったのではあるまいか。

 

  (「加藤一二三名人」誕生編に続く→こちら

 

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