「マカオのカジノで大勝負や!」
そんな雄たけびを上げたのは、不肖この私である。
数年前の1月。少し遅めの冬休みを取った私は、香港に旅行することとなり、その際マカオにも寄ることとなった。
マカオといえばカジノである。
「東洋のモンテカルロ」という、場末感バリバリの愛称を持つ賭博都市マカオだが、当時は中国の富裕層の流入により、えらいこと活気づいていた。
なら私もその勢いに乗らない手はなかろうと、一攫千金目指して乗りこむことにしたのだ。
私はこのマネー獲得計画を「ルーン=バロット作戦」と命名し、勇躍マカオの大ホテル、シェラトン・マカオホテル・コタイセントラルにチェックイン。
まずは景気づけのため、でかいホテルで英気を養おうということだ。さすがは私、このあたりは豪快というか、人間としてのスケールの大きさがうかがい知れるところだ
といっても、そこは貧乏人の私のこと、しっかりと「セール価格」の日を選んでの滞在ではある。
一泊ツインで1万円弱。
ひとり6000円ほどで、世界最大規模の部屋数を誇るマカオのシェラトンに泊まれたのだから、私もなかなか運がいい。大勝負を前にして、幸先がいいことこの上ない。
チェックイン時も、シェラトンの底力をまざまざと見せつけられた。
なんといっても、ロビーが広い。大げさでなく、ちょっとしたスタジアム並みの規模がある。
天井もやたらと高い。ドアマンがいて、受付の人もパリッとしたスーツ姿。
もちろん、ホテル付属のカジノがあって、さっそく一勝負している人がいる。
香港で泊まっていたクリスタルドラゴン・ホステル(仮名)など、ロビーはコンビニのトイレくらいの大きさで、受付はランニング姿のじいさん。
ガキがスマホゲームで遊んでいる。宿帳は今どき手書きで、英語も通じない、もちろんカードなど不可。
それでいて、ツインで4000円。香港は宿代が割高だ。
シェラトンは部屋もすごかった。豪華で広く、アメニティーも充実。
でかいバスタブに、テレビはNHKも映り、冷蔵庫、ティーセットなどくつろぐのに充分のアイテムも装備。
14階からは夜景も見え、ベッドもでかく、一人たった6000円でこんなところに泊まれていいのかと思うほどだ。
一方、クリスタルドラゴンの部屋は4畳半。
「ツイン」とうたっているが、2個もベッドが入るはずもなく2段にしてある。
窓も小さい。刑務所モノの映画やドラマに出てくる、囚人に食事を差し入れる小窓くらい。
屋根も低いから、圧迫感がハンパない。
もっともすさまじいのがバスルームで、畳一畳くらいの大きさに詰めこんでいるから、シャワーを浴びた後、床から便器からトイレットペーパーまで、びしょ濡れになる。
これこそバックパッカー的安宿の醍醐味! 嗚呼、はやく人間になりたい。
そんな、いつものビンボー生活からのシェラトンだから、私がどれほど感動したかは想像に難くあるまい。
しかも、このマカオのホテルというのがたいてい歩道橋でつながっていて、いろんな高級ホテルやその道筋にあるショッピング街も楽しむことができる。
この高級ホテルめぐりが思ったよりも楽しかった。
「マリオット」
「ホテルオークラ」
「グランド・ハイアット」
などなど、名前くらいは知っているホテルが並んでいるのだが、そのどれもがとにかく電飾でピカピカしていて、なかなかに景気がよろしい。
「ベネチアン」なども、中に運河が走っていて、そこをゴンドラが行き来している。
ビルの中に運河とは意味不明ではないか。
そういえば、バブル時の日本もこういう施設が国中を席巻していたが、人は無駄に大金を持つと「豪華な下品さ」に行きつくのだろうか。
中でもやはりはずせないのは、マカオのシンボルともいえる「ホテル・リスボア」であろう。
その様相は下手な説明よりも、実物を見たほうが早いであろう。これ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/2f/7484df47a7b0a96ee93ee3f60f8a5e67.jpg)
どう見ても、昭和特撮ヒーローものの悪の秘密基地感バリバリ。すばらしいセンスだ。
きっと最上階では、プールにすっ裸ギャル100人が泳いでいて、札束を餌代わりにした釣り竿で、IT社長がそれを釣り上げていくみたいな、下品で楽しい遊びをしているのだろう。
これがですね、マカオ随一の観光地である聖ラザロ広場とか、その近くにあるモンテの砦から、よう見えますねん。
こちらが砦からマカオの街を見下ろし、
「ここで幾多の戦いがあり、多くの血が流されたのだな……」
なんて歴史的感傷に浸っていると、そこにドーンと、このリスボア。
もう腰くだけなことはなはだしい。
日本でいえば、京都の銀閣寺や清水寺の境内にパチンコ屋があるようなものだ。このトホホ感がいい味である。
そんなモナコやアスコットのような粋とは無縁なマカオのホテルライフだが、勝負には関係ない。
むしろ、そういったアジア的カオスこそ、こちらの魂をゆさぶるというものなのである。
(続く→こちら)