驚愕の「鈴木流早石田」 佐藤康光vs鈴木大介 2006年 第77期棋聖戦 第3局

2022年10月17日 | 将棋・好手 妙手

 「自分では絶対に思いつかない手」

 これを観ることができるのが、プロにかぎらず、強い人の将棋を観戦する楽しみのひとつである。

 「光速の寄せ谷川浩司九段の寄せや、「羽生マジック羽生善治九段の逆転術に、藤井聡太五冠のアッと言う見事な詰み筋など、終盤のすごみもいいが、序盤戦術での新構想にも、シビれることが多い。

 世代的にやはり、もっともおどろかされたのが「藤井システム」で、これははずせない。

 

 

 

 伝説的な「藤井猛竜王」誕生や、それにまつわる「一歩竜王」など語っていけばキリがないほどエピソードはあるが、振り飛車党の棋士からは、

 

 「藤井システムがなければ、三段リーグを突破できなかったかもしれない」

 

 という声も聞いたりして、藤井本人だけでなく、それこそシステムのせいで三段リーグを「突破できなかった」者もふくめて、多くの人間の人生にも影響をあたえた戦法であった。

 これともうひとつ、中座真七段が考案した、

 

 「中座流△85飛車戦法」

 

 

 平成の将棋で死ぬほど見た「中座飛車」。

 従来は「悪形」とされた高飛車が、攻守ともに絶好のポジションであったことが理解されたとき「革命」が起こった。

 ちなみに、考案者の中座は、この△85飛を▲35歩と、角頭を責められるのを牽制した守備的な意味で指したそう。

 それを見て、すぐさまその優秀性に気づき「攻撃」の戦法として訳し直し、ブレイクさせたのが野月浩貴八段。

 

 

 

 この2つが、平成の将棋界を様々な形でゆるがした二大新戦法だが、そんな数ある新手の中で、個人的にもっともおどろいたのは、鈴木大介九段考案の手。

 まず見ていただきたいのが、この局面。

 

 

 

 

 2006年、第77期棋聖戦五番勝負の第3局佐藤康光棋聖との一戦。

 初手から▲76歩、△34歩、▲75歩、△84歩、▲78飛△85歩▲74歩△同歩▲同飛としたところ。

 先手の鈴木大介が選んだのは「升田式石田流」または「早石田」と呼ばれるもので、アマチュアにも人気が高い戦法である。

 なんてことない局面に見えて、すでにここは風雲急を告げている。

 △88角成として▲同銀に△65角

 

 

 

 飛車が逃げるしかないが、△47角成歩得を作って後手優勢
 
 これがあるから、先手から▲74歩と交換するのは無理筋といわれていたのだが、ここで鈴木大介が驚愕の発想を見せるのだ。

 

 

 

 

 

 △88角成▲同銀△65角に、▲56角と打ち返すのが、2005年度に「升田幸三賞」を受賞している「鈴木新手」。

 といっても、これだけ見たらなんじゃらほいというか、ムリヤリ飛車取り角成の両ねらいを受けただけのようだが、これが意外と手ごわいのだ。

 △74角▲同角で、先手から▲63角成というねらいができる。

 △72金と受けると、そこで▲55角が絶好の一手。

 

 

 

 一回△73歩と角を追って、▲56角に、香取りを受けるには△12飛と打つしかない。

 

 

 見た瞬間「はあ?」と言いたくなるような、異様な形だが、これでいい勝負だというのだから恐れ入る。

 ここまで来ると、振り飛車というよりは横歩取りのような空中戦

 

 

 

 以下、こういう局面になって、前例なんてあるわけない。

 結果は佐藤が勝って棋聖防衛に成功するが、将棋自体は先手が相当に有望だった。

 ちなみに、▲56角の局面は第1局でも現れており、そのときは佐藤が飛車を取らずに△54角と引いている。

 

 

 

 ここから比較的じっくりした戦いになった。

 

 

 

 勝負は佐藤がものにしたが、△54角という手に妥協を見たのだろう、第3局はしっかり対策を練って、堂々と踏みこんでの力将棋

 結果ではどちらも、先手が敗れたものの、この両者のやり取りだけでも、充分にインパクトはあった。

 将棋の序盤は新構想の宝庫だということを再認識させられた、スゴイ棋譜で、今でもおぼえているのだ。

 

 (郷田真隆の絶品石田流退治に続く)

 

 ■おまけ

 (鈴木大介の魅せた終盤術はこちらから)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

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