「あれ? 永瀬王座、いつもと違いますやん」
なんてモニターの前で、すっとんきょうな声をあげたのは、王座戦を観戦しているときであった。
今期の王座戦では挑戦者である藤井聡太七冠が、空前絶後の大記録「八冠王」をかけて戦っているのは、各所でニュースになっている。
その一方で、迎え撃つ永瀬拓矢王座もまた、王座獲得連続5期の「名誉王座」をねらっており、その話題性からして「藤井ブーム」の、いやさもっといえば、令和初期の将棋史的にも、ひとつの大きな山場を迎えているのであった。
その期待通り、第1局、第2局とも熱戦ですばらしく、できたらフルセットまで行ってほしいなあと、今からワクワクしている次第。
そんな中、どちらかが長考中、対局場の風景をボーっと見ているときに、フト違和感を感じたわけなのだ。
なんだか、「間違い探し」の問題を見せられているような、不思議な感じだったが、しばらくして「あー」となった。
そう、永瀬王座がこのシリーズは、和服で対局しているのである。
永瀬と言えば、個性派の多い棋士の中でも、また飛びぬけてキャラの立った人。
「受けつぶし」を得意としたSっ気丸出しの棋風に、同業者が腰を抜かすストイックな勉強量など、その例は枚挙にいとまがないが、中でも、
「タイトル戦でも和服でなくスーツ姿で通す」
というのが話題を呼んでいたのだ。
というと将棋を知らない人からは、
「え? 将棋って和服着用が普通じゃないの?」
という声もあるかもしれないが、棋士は普段の対局はほぼスーツである。
デビュー当時の藤井七冠や中村太地八段の学生服や、阿部隆九段が一時期好んでいた作務衣、また気合いの入った順位戦などでは和服を着るベテランもいるが、これは例外中の例外。
タイトル戦でも基本的には服装は自由であり、かつては「ひふみん」こと加藤一二三九段も和服を好まず、スーツで対局していた。
42歳で悲願の名人を獲得したときも、和服の中原誠名人とちがい、やはりスーツで通していたから、その徹底ぶりはいかにも加藤一二三っぽいではないか。
「加藤名人」誕生のときもスーツ姿。
永瀬王座もまたその系譜にあり、たぶん最初の方は和服を着てたと思うんだけど(途中で着替えたりとかした時期もあったかな)、最近ではすっかり洋装がトレードマークになっていたものだった。
ただ、やはり将棋のタイトル戦では、ほとんどの人が和服を着るために、そこに違和感を感じる人はいるよう。
これに関しては、私はどっちでもいいというか、別に和服だろうが、スーツだろうがドラッケンフュアー・シュヴァルベンストライクだろうが、なんでもいい派である。
もともと「○○は△△でなければならない」みたいな決めつけは好きでないし、そもそも、そういったものの起源をたどると、案外その根拠もいい加減だったりする。
なんで「別にいいじゃん」って感じで、囲碁なんかもみんなスーツだし、そんなに気にならないのだ。
ルールで決まってるならまだしも(今回の王座戦はそうしたみたいですね)、「同調圧力」でってのは、なんかヤだしなあ。
こんなもん、なんでもOK。ポロシャツや短パン、ジーンズにサイケにコスプレに全身タトゥーでも好きにやればいい。
そういえば昔、竜王戦の挑戦者決定戦で盤外戦術(?)なのかどうなのか、若き日の先崎学六段がチノパンや、Tシャツにジーパンという姿で対局に挑んだことがあった。
対して佐藤康光七段が1勝1敗の第3局では堂々の和服で受けて立つとか、バチバチにやり合っていたこともあったっけ。
私は結構歴の長い「ガチ勢」にもかかわらず、
「2日制とか、もう時代に合ってないし、やめてもいいんでね?」
とか、かなりテキトーなタイプなので、この手のテーマでは「リアルガチ勢」の人には怒られがちですが、ハイ。
ただ、ネット中継の充実した今、海外へのアピールという意味では、和服はかなりの武器にはなりそう。
なのでまあ、原則としては自由を選んでいいとして、本人が「どうしてもイヤ」という以外は、基本的には和服でいいとも思う。
このあたり、永瀬王座の「イヤ度」はどれくらいだったんだろう。
気にしてないならいいけど、「ホントはスゴイ嫌」なのに着さされているんだったら、大きな記録もかかってるのに、ちょっと気の毒かもなーとか思ったり。
(島朗の「アルマーニで竜王戦」編に続く)